楢材のキャビネットとメープル材のキャビネット

東横線、大倉山駅の近くにあるCAFE 『ROOF OKURAYAMA』のキャビネット収納を製作させていただきました。

工房オープン日にお越しいただき、その後わたしたち2人で置かれる場所を見にCAFEに伺いました。

線路脇の丘を登ると、中庭に大きな木のあるとても気持ちのよいCAFEで、北欧の建築家”アアルト”の設計する住宅を彷彿させるような雰囲気でした。

お客様のご希望は、長年使ってきたキャビネットと同じ機能が欲しい、扉の一部を白くしたい、将来的には2つに分けて使うことを想定したいとのことでした。どの部分を白とするか、全体の機能を考えながらラフスケッチで何パターンか検討していきました。最終的には楢と白は"面"で分けるのではなく、"立体"として分けていくことを提案しました。楢材の板と、楢材の箱、白い箱がそれぞれ重なっていく構成です。その立体構成で楢と白の配置をデザインに落とし込んでいきました。また、立体で素材がわかれていることで、どの角度からみても同じ印象になります。

経年に伴い、長く使い込まれた他の家具と馴染み、このCAFEの風景の一部となっていくことを想像するととても楽しみです。

そして納品後の工房オープン日、平塚にお住まいのROOF店主の弟さんご夫婦が工房にお越しくださいました。お店でキャビネットをご覧いただいたとのことで、似たデザインのキャビネットの製作のご依頼をいただきました。ご希望はすべてメープル材、引き出しは4杯ほしいとのことでした。

このキャビネットは本体と扉には、無垢材を薄く削ったもの(t1.5~2mm)を表面の材料として製作していきました。メープル材のもつ固有の魅力をキャビネットの形の中で表現できるよう、木材の選び方と木目の配置にはとても時間をかけました。

納品したお客様のご自宅は、高い丘の上にあり、ダイニングの窓にはまるで小さな模型をみているような風景が広がっていました。新幹線の線路、小さな家々、大きな空。その窓のとなりにメープルのキャビネットは設置されました。

リビングにはご夫婦の大切にされているたくさんの小物や作品が壁や棚の上に置かれ、それにまつわるお話を楽しく聞かせて頂きました。

大切につくられたり、年月が経って過ごしたものにはそれぞれ自然と物語が生まれると思います。

わたしたちのような『つくっている人』を知ってくれることで、その物語が少し楽しいものになればいいなと思います。

建物の窓は外の風景を切り取るものですが、家具は内部の風景を作るとものだと思いながら、日々家具をつくっています。

kumiko

 ホタル 寺家ふるさと村

少し前のこと、

雨が上がるのを待ちながら切りの良いところまでと思って作業をしていたら、いつの間にかすっかり日が暮れていた。

めずらしく妻と一緒に木の子の散歩に出かけることにした。

寺家スタジオの方から川沿いの道に降りてゆく。川に沿って雨上がりのひんやりと湿った風が流れていた。時折木の子は立ち止まって、少し背伸びするように空中に鼻を持ち上げ、風に乗ってくる匂いに意識を向けている。しばらく川沿いを歩いて、用水路に沿って田んぼの方に向かった。

ふと水路脇の茂みに目を向けると1匹の蛍が涼しげな光を灯しながらゆらゆらと舞っていた。もうそんな季節か。僕たちはもう少し奥のふるさと村の田んぼの方まで行ってみることにした。思った通り、真っ暗な森に蛍の強い光が舞っていた。僕たちが夢中になっていると、木の子はつまらなくなったのか、自分でハーネスを抜いて田んぼの方に走って行ってしまった。真っ暗でよく見えないけれど、「ちゃぽん」と、水に入る音が聞こえた。あああ、水路に入って遊んでいるらしい。しばらくすると僕たちの前を勢いよく横切る影。そのまま今度は森に入って行った。自由人。

先日、open日に工房に来てくださった方が、こんな環境で日々家具作りをしている僕たちを見て「幸せを手に入れましたね!」なんて言っていた。その時はずいぶん大袈裟なことを言う人だななんて思っていたけど、確かにそうかもしれないとも思えてくる。当たり前のこととして日々季節が移ろい、それを日常の中でほんの身近に感じられる。それはとても幸福なことなのかもしれない。

takashi

胡桃の飾り台

クルミテーブル

胡桃の飾り台 w1900 x d350 x h700 (展示品あります)

数年前からずっと胡桃材を使ってみたいと思っていた。 

普段よく使っているナラやチェリー、ウォールナットと比べると胡桃は柔らかく、強度の面でも硬い材料と同じ感覚では使えない。

かといって強度を保つために単純に部材寸法を太くすれば、その優しい木目も相まって、野暮ったい印象になってしまう。

ある意味では使い方がとても難しい材料でもあるけれど、その柔らかさがとても魅力的に思えていた。特に天板に使えば物を置いたときの当たりが心地良いに違いないと思った。

馴染みの材料屋さんには常々相談していたので、北海道産の胡桃材が入ったときはすぐに声をかけてくれた。ある程度まとまった量の胡桃材を買った。買ったは良いけれど、これで何を作ろうか、、特にすぐに使うあてもなかったのでしばらく手をつけられずにいた。

そんな材料の山の中にひときわ目を引く板があった。これを活かすようなものを作ろうと思った。

巾は350mmぐらいの耳付きの板で、荒々しい節を持ちながらも木目は繊細で上品。色味もとても深い褐色だった。どこも切り落としてしまうのがもったいないほどの板。隅々まで全て使いたいと思った。普段であれば平らな面を出すために機械である程度厚みを削って使うけれど、今回は厚みもなるべく薄くしたくなかったので、機械は使わず、手カンナで平面を出して仕上げることにした。

荒木からひたすらカンナで削りまくる、気の遠くなるような作業。でも削るほどに現れてくる美しい木目と深い色に嬉しくなる。

天板が耳付きの有機的な形状である分、全体の印象としてはあまり重たいものにはしたくないと思っていた。かといって脚には金属を使うのではなく、全て木で作ろうということは決めていた。妻と二人で様々な形の可能性を探った。途中まで進めながら、イメージ通りの結果にならずやり直したりもした。最終的には脚は柾目の板を使って、できるだけ薄く見えるような加工をし、幕板がRを描き板脚に吸い込まれていくようなデザインとした。

クルミテーブル クルミテーブル クルミテーブル

オーダーで家具を製作する場合、お客様の機能的な要望が中心にあって、それを満たすことを前提とした上で、美しさなどを追求していくことが多いけれど、今回は使いたい素材が先にあって、それを最大限に生かすためにベストだと思う形を探っていくという別のアプローチでの製作となった。

僕たちの思う一つの答えは出せたような気がする。

takashi

小さなナラの仏壇

小さな仏壇 家具調仏壇 手作り仏壇 無垢仏壇

W440 x H490 x D350 ナラ無垢材 無塗装仕上げ

小さな仏壇製作のご依頼をいただいた。

仏間などに収めるのではなく、普段ご家族が過ごしているリビングに置きたいとのご要望だった。

祈りの場として日々向き合うもの。上質で静かな佇まいのものにしたかった。

まずは家具としての存在それ自体を心から気に入っていただけることが大事だと思った。そのために僕たちにご依頼をいただいたのだと思う。

全体のバランス、それぞれの部材の寸法設定がとても重要になってくる。装飾的な形状はいらない。シャープでありながら柔らかい印象にするために天板と地板の前面は緩やかな曲線を描き、板厚を薄く、軽やかに見せるように木端を浅い角度でテーパーに削る。それぞれの板の厚みは全体のバランスから一番きれいに見える厚みを検討して決める。構造的にしっかりと板厚を確保したいところは扉をかぶせて厚みが見えないように工夫したり、細部までしっかり意識しながら設計してゆく。

ナラ無垢材無塗装仕上げ。木そのものの持つ風合いを引き出すためにオイル等は使用せず、無塗装の素地を磨き上げて仕上げる。さらに日々乾拭きを繰り返すことで自然と磨き込まれて少しずつ艶が増し、味わい深く変化してゆく。

上質な柾目材を選りすぐった上で、さらにどの材料をどう並べて、どの部材に使うかを慎重に検討して木取り、製作した。小さい分、木目の選び方も全体の印象に大きく影響すると思う。

扉には、真鍮角棒で作ったオリジナルの取手を一本だけ取り付ける。ほんの少し色気が出ればと思う。

小さな仏壇 家具調仏壇 手作り仏壇 無垢仏壇

小さな仏壇 家具調仏壇 手作り仏壇 無垢仏壇

小さな仏壇 家具調仏壇 手作り仏壇 無垢仏壇
小さな仏壇 家具調仏壇 手作り仏壇 無垢仏壇

                              

向き合ったときの程よい量感、触れた手にしっとりと優しい無塗装の肌触りが心地良い「小さなナラの仏壇」が出来上がった。

takashi

ナラ材の収納家具

楢材の収納家具を製作しました。

お客様が工房にお越しいただいたのは2年半ほど前だったと思います。自宅を新しく建てている時期で、キッチンとダイニングの間の壁にL型の家具を希望されていました。どのような収納があるとよいかをとても熟慮されていて、引き出しやティッシュ、ゴミ箱の収納など具体的なご要望をいくつかお聞きし、家具のご提案をさせていただきました。

〈1案目〉

〈2案目〉

2案目をベースに何度かやりとりをしながら、更に機能性を充実させていきました。

上部には浅めの引き出しを横並びに配置し、下段は左側に大きめの引き出し、他は開き扉としています。また、上と下に段差をつけることで表情豊かな家具になるよう全体の形を整えていきました。

出来上がった構成をもとに、どのような木目にするか、つまみはどうするかなど設置する場所の空間に合うよう詳細を決め、製作へと進んでいきました。樹種は楢材とし、家具全体が木目によってうるさくならないよう、柾目と板目を使い分けています。

家具はオブジェではなく機能を伴うものですが、機能だけを追求するとつまらないものになります。家具が入ることでその空間が心地よくなったり、日常が楽しくなるような提案をしたいといつも思っています。

この家具があることでお客様の日常が少しでも快適に豊かになってくれたら嬉しいです。

kumiko

イエティ

イエティ

あの人に会わなければ僕はたぶん一生イエティの存在には気が付かなかったと思う。

あの人にとっては、何年か前に偶然入ったネパールのカフェで働いているイエティに会ったのが最初らしい。その時は、あまりの嬉しさにイエティが着ていたカフェのスタッフTシャツを買って、イエティと一緒に記念写真を撮ったのだそうだ。

僕は今までどこかのお店のスタッフTシャツを買ったことは一度もないし、買いたいと思ったこともない。普段誰かと記念写真を撮ることもまずない。

でも、外国でふらっと入ったカフェでイエティが働いていたら、やっぱり僕も同じことをするような気がする。

この前、あの人がイエティを作ってくれた。それを見ていてはっとした。何もネパールのカフェまで行かなくても、実はイエティはいつもすぐ近くにいるのかもしれない。そういえば時々腰のあたりに大きな手の温かい感触を感じることがある。近すぎて今まで気が付かなかったけれど、本当に大切なものはすぐ隣にあるのかもしれない。たぶんあの人にはそれがはっきりと見えるているんだと思う。

takashi

スツール

スツール キッチンスツール

郵便配達員のお兄さんが僕たちの家具を見に工房に来てくれたのは今から5年近く前のことだった。

小さな工房の家具の展示をとても気に入っていただき、その時はまだ無理だけれどいつか必ず何か注文したいと言ってくださったその目がどこまでも澄んでいたのをとても印象深く覚えている。

その翌年には、お母様にも見せてあげたいと、ご一緒に来られて、ものを作る過程の話、素材の話など様々な話しをした。

それから数年たった今年の春、お住まいのアパートの部屋の窓辺にhalf moonのスツールを置きたいと、製作のご依頼をいただいた。

その場所で本を読んで過ごすイメージが出来上がり、決心して来ていただいたのだという。手帳に描かれたメモを見ながら、そのイメージを話してくれた。その手帳には、窓の高さや配置だけでなく、以前僕と話した内容などもメモされているようだった。

ほんの小さな家具だけれど、何年もの間、ご自身の生活の中での居場所をイメージしながら、じっくりご検討いただいた上でご依頼いただいたスツール。とても楽しみにしていただいていることが伝わってきた。ものの価値について思う。それは金額とか大きさとは全く関係のない、極めて個人的な価値で良いのだと思う。そしてその人にとってのその価値を最大限に追求するのが僕たちの役目だと思う。自転車で団地を廻って郵便物を配りながらも考えていてくれたのだろうなと思う。

それから数ヶ月、スツールが完成してお引き取りにお越しいただいたのは夏の終わりの日曜日だった。

最近、長年勤めた郵便局を離れ、傘の販売の仕事に変わったのだそうだ。大学生の頃、雨の日に広いキャンパスを傘をさして歩くのがとても好きだったことを話してくれた。緩やかに切り取られた雨の風景。その傘の下、たった1人で聞く雨の音は柔らかく響いていたんだろうと想像する。自分だけの、ささやかだけれど特別な世界を切り取る傘。そんな魅力を伝えるような仕事がしたいと思うようになったのだという。その眼差しは初めてお会いした時と全く変わらず、純粋で繊細で、まるで妖精のようだと思った。

エアキャップで梱包したスツールをとても大切そうに抱えて歩いてゆく後ろ姿を見送りながら、大好きな傘の仕事がうまくいって欲しいと心から思った。

takashi

山桜ダイニングテーブルとダイニングチェア

山桜ダイニングテーブル

最初に工房にお越しいただいた時は、ご自宅の新築に際してTVボード製作のご相談だった。

テレビとオーディオ機器を配置し、両脇にはギターとベースを一本ずつ壁掛けにする。ご主人の趣味の中心としてのTVボードをまず特注したいとのご要望だった。

ダイニングテーブルはハウスメーカーに依頼し、椅子は大手家具メーカーの既製品に決めているとのことだった。

ご相談をいただいたTVボードのプランをご提案してからしばらく経った工房OPEN日、再度ご夫婦でお越しいただいた。奥様曰く、以前ここで見た山桜のダイニングテーブルが忘れられないのだと。TVボードではなく、ダイニングテーブルを作ってもらいたいという気持ちになってきたとのことだった。

最初にお越しいただいた時、ちょうど僕たちが製作した納品前の山桜のダイニングテーブルを置いていた。それがまさに奥様にとって理想のテーブルだったそうだ。素材の色味、質感がとても好みで、建設中のご自宅の雰囲気にもぴったりとくるものだったと言う。ご家族みんなが料理好きで、大人数で食事を囲むことも良くあるようで、ダイニングテーブルは大きなものが理想とのことだった。

ダイニングテーブルは無垢の木の風合いが前面に出る家具。ご自宅の内装は壁や床等、素材にこだわっているとのことだったので、僕たちもTVボードではなく、ダイニングテーブルを作らせていただくことに大賛成だった。

椅子を6脚並べられる大きなテーブル。お客様が最初から決めていた椅子がうまく収まるような寸法に設定して 製作を進めることになった。しかし、前回と同じルートで山桜材を仕入れようと思ったところ、もう無いと言う。馴染みの材料屋さんが北海道に仕入れに行くので探してきてくれるとのことだったのでそれに期待して待つことにした。しかし、返答は北海道にも無く、手に入らなかったとのことだった。お客様は無いのであれば系統の近いアメリカンチェリー材でも良いと言ってくれていた。チェリー材もとても魅力的な材料で、僕も好きな材料の一つではある。でも。この場合はやはりチェリーではなく山桜が絶対に良いと思った。なんとしても探し出したかった。知り合いに聞いてまわって、なんとか山桜を持っていそうな材料屋さんを紹介してもらうことができた。問い合わせると千葉県の倉庫に東北産の山桜を持っていると言う。すぐに見に行って満足のいく材料を仕入れることができ、ようやく製作を進めることができた。

ダイニングテーブルの製作を進めていくうちに、お客様は6脚購入予定の椅子のうち3脚はhalf moonの椅子にしたいとのご希望をいただいた。まずはテーブルを先行して製作し、half moon 02chairの革張りを3脚、お引越し後に製作することになった。

ダイニングテーブルが完成した時、ご夫婦で工房まで見に来ていただいた。山桜の柔らかく優しい色味がイメージ通りだと、とても気に入っていただいた。

さらに、「ここまで来たら、6脚全部half moonの椅子で揃えたくなった」と

奥様からとても嬉しいお言葉をいただいた。

そもそも最初に決めていた椅子が収まるようにテーブルを設計していたはずだったけど。それはまあ良し、と言うことになって01chairをさらに3脚製作させていただくことになった。

halfmoon 01 chair  山桜ダイニングテーブル

最終的にはダイニングテーブルと椅子を6脚。すべて製作させていただいた。きっとこのダイニングは、ご家族にとってこの新しい家での生活の中心となる場所だと思う。ご家族の日常とともに、長い時間をかけてじっくと変化しながら深みを増していってくれると思う。

takashi

小さな友達

うちに木の子(犬)が来た頃だから、もう4年半前ぐらいになる。

打ち合わせから帰って来たら、工房の近くに住んでいる女の子が入り口に展示してある1人掛けソファにぽつんと座っていた。近所で何度も見かけてはいたけれど、お話しをしたり工房に来たのは初めてだった。

「ここにはもう一人いるよね。おんなのひとが。」

木の子を可愛がりながら、ぽつりぽつりと会話をしつつ私の帰りを待っていたらしい。

それから、その女の子はよく工房に顔を出すようになった。木の子とも仲良くなり、木の子と2人で探偵ゴッコをしていたり、みんなで散歩に行ったり。驚くほど手先が器用で、工房に来ては木の端材で色々なものを作っていた。サイコロのような形をした"さっぽろくん"の船や飛行機本当にたくさんのものを自由な発想で作っていた。 

仕事に追われる日々の中、私にとって彼女との時間は楽しみにもなっていた。

そんなあるとき、「椅子を作ってみよう」という話になった。どうしてそうなったのか忘れたけれど、彼女の器用さなら作れるのではないかと思ったのは覚えている。まず、どんな椅子がいいか絵を描いてもらった。それを元に、大きさを決めて図面を描いた。私が描いたものを説明し、本人に一から描いてもらう。そして、使う樹種を選び、部材の寸法出しも一緒にした。

木造り(材料を必要な寸法に加工すること)はこちらで行い、ホゾの加工はノコギリと鑿を使って本人にやってもらう。椅子はだんだんと形になっていった。チェリー材でつくり、背中が当たる板はメープル材。背をつける位置も女の子に聞いて、彼女の持っている"いい"と思う感覚をできるだけ大切にした。座面貼り、仕上げ、塗装までやり遂げ椅子は完成した。

今、その椅子は遠く離れた大好きなおばあちゃんの家にあるという。

そんな日々の中、女の子のお母さんがあるとき工房に来た。

キッチンスツール 2脚お願いしたいと。

「家にいつも"たかちゃん""くみちゃん"がいるみたいだから」

女の子が笑顔で言ってくれた。

あれから2年以上。

小さな女の子と会うことも見かけることもほとんどなくなった…

でも彼女はわたしにとって大切なことを思い出させてくる、今でもかけがえのない友達だ。

          

    ひこうきに乗った 「さっぽろくん」

kumiko

先日、1111日。

女の子のお母さんがエッセイを出版した。毎日のように工房に来てくれていた女の子とその弟と妹、3人が不登校になり、そんな子供たちとの日々を綴ったエッセイ。

「ママの背中は竜巻だ!!」あらい さゆり

物語のような、この辺りの風景も想像できる温かい内容です。わたしたちのお気に入りの本が一冊増えました。

犬と共に過ごすソファ

数年前に家具を製作したお客様よりソファのご相談を頂きました。

ソファといっても『犬(キュラちゃん)と過ごすためのソファ』を作ってほしいとのことでした。

通常(一般的にある)のソファでも犬と過ごすことはできるけれど、今回オーダーで製作するのには理由がありました。保護犬を数年前から飼われていて、先天的に膝が悪く、通常のソファの高さだと下りたときに膝を脱臼してしまうとのこと。そのため高さの低いソファをご希望されていました。キュラちゃんが上り下りしやすい高さや一緒に過ごすための広さは確保しつつ、ご家族のライフスタイルにも合うようにデザインを進めていきました。

具体的には、樹種はリビングの他の家具に合わせた  ”メープル材” 。

背のシルエットは台形をイメージされていたので、背が綺麗に見えるような台形型。

ゆくゆくはソファを2つに分け、大きめの底座椅子として使えるように分割できるような仕様。

完成したソファをお届けしたとき、警戒心の強いキュラちゃんは最初は姿を現すことはなかったけれど、しばらくしてご主人に抱えられて怖がりながらも私たちの前に出てきてくれました。私たちの前では怖がっていたキュラちゃんですが、一緒に連れてきていたうちの犬(木の子)とはすぐに打ち解け、みんなで近くの栗林まで散歩に行きました。

数日後、奥様よりメールをいただきました。

「ソファ、初日より大活躍しています。
キュラはソファにやってきては身体を伸ばしてくつろいだり、おもちゃを持ってきて遊んだり、夜は母と一緒にベッドとして寝ています。奥行きたっぷり取ってよかったです。」

納品後は、キュラちゃんがソファで過ごせているのか心配していたので、このメールを頂きホッとしました。

人の生活は時間の経過やいろいろな環境の影響で変化し続けると思います。

先のことを考え過ぎるとより複雑になりがちですが、今ある日常を大切にし、ポジティブな発想でご依頼いただいたソファはもの作りの可能性を再認識することができました。

ご家族とキュラちゃんとの日常がソファがあることでより豊かになってくれると嬉しいです。

kumiko

小さな本棚

無垢 本棚

W710 x D300 x H1185  ナラ無垢材 ソープフィニッシュ

リビングに置く小さな本棚の製作をご依頼いただいた。

壁面には大工さんに作りつけてもらった大きな本棚があるとのことだった。そこからピックアップしたお気に入りの本を入れたり、今読んでいる本やこれから読もうと思っている本を入れたり、小物を飾ったりするための小さな本棚。それはその時々の楽しみやお気に入りをそっと置いておく、とても個人的な宝箱のような存在だと思う。

僕だったら、

一番下の段に最近買った家具や建築に関するサイズが大きめの本を何冊か。名作椅子に関する本と木工旋盤の技術書。どちらもとても内容が濃そうで楽しみな本たち。

もう20年くらい前に出会って以来バイブルのように持ち続けている2冊。星野道夫の「旅をする木」とサローヤンの「papa you're crazy」は上の方に置いておこう。気が向いた時に手にとって、適当に開いたところから読む。眠たくなったらそのまま寝てしまうのも気持ちが良い。

これを機にずっと迷っていた「フィッシュマンズ全書」も買ってしまおうか。絶版だから古本でも高く、電子書籍ではどうしても買う気にはなれずに迷っていたけれど、置き場所があるのなら高くても本で持っていたいなと思う。

フィジーにいた頃の700日分くらいの日記帳も並べておいて久しぶりに読み返してみようかな。まだ持っていないけれど大好きな人形作家さんの作品集のためのスペースは開けておこう、なんて妄想するだけで楽しくなる。

子供に小さな本棚をプレゼントして、気に入った本だけを入れるというルールを作っても面白いかもしれない。数年後どんな本棚になっているのか。小説、図鑑、絵本、漫画、どんな本が多く入っているのか。またそれが年とともにどう変わってゆくのか。もしかしたらたった一冊だけがずっと置かれているということもあるかもしれない。

本棚 無垢材

古くから無垢の家具にある框組や鏡板、装飾的な要素を取り入れて製作した小さな本棚。

この本棚がお客様にとって、わくわくするような宝箱になってくれたら嬉しい。

takashi

チェリー材のデスク

チェリー材 デスク

w1700 x d1000 x h720    アメリカンチェリー無垢材

アメリカ人のお客様からご自宅オフィス用に大きなデスクのご依頼をいただいた。

もともとは2019年に内装を手掛けさせていただいたblue door coffeeたまプラーザ店にオープン当初から頻繁に通っていて、その内装を気に入っていただいたとのことでご自宅の新築に際して声をかけていただいた。

ご要望は、日々の仕事にストレス無く使える十分な広さと"unique"さだった。

誰のためでもない自分だけの特別なデスク。初めてお会いした時からとても期待していただいているのが伝わってきた。

一人で使うことを考えて、全体が柔らかく自分の方を向くように、全てを扇型に配置するデザインで提案させていただいた。

最初の案では天板部分を扇型の箱として作り、その妻手側から湾曲した隠し引き出しが出てくるという仕掛けを考えていた。

この案も気に入っていただいていたけれど、予算的にもう少し抑えるために隠し引き出しは諦めて、扇型の配置は残しながら無垢の風合いを活かす方向に整理していった。

アメリカンチェリー無垢材の天板と旋盤で丸く削った4本の脚。それをつなぐフレームは全て天板の曲率に合わせて湾曲させる。引出しの前板も天板に合わせて曲面に削り出す。

チェリー材 デスク

板を曲面に削り出す場合、材をどういう向きで使うかによって木目の出方が全く違う。木の家具にとって木目の使い方はそのデザインにとても大きな影響を与える。その使い方を間違えればせっかくの家具を台無しにしてしまうこともある。そこまでコントロールできるのが一点一点手で作ることの大きな強みだと考えている。そこを考えながら木をよく見て、より良い木目を出すように作るのはとても楽しいことでもある。

チェリー材 デスク

最初にご相談をいただいてから完成まで1年弱。気がつけばその間にやりとりしたメールは30通を超えていた。

納品した時にとても喜んでいただけたことはもちろん、後日奥様から「彼は嬉しくて、みんなに自慢してるんですよ。」と聞いた時は本当に良かったと思った。日々の暮らしの中でそのものと向き合った時に少しでも嬉しくなるようなものを作っていきたいと考えている。

takashi