
最初に工房にお越しいただいた時は、ご自宅の新築に際してTVボード製作のご相談だった。
テレビとオーディオ機器を配置し、両脇にはギターとベースを一本ずつ壁掛けにする。ご主人の趣味の中心としてのTVボードをまず特注したいとのご要望だった。
ダイニングテーブルはハウスメーカーに依頼し、椅子は大手家具メーカーの既製品に決めているとのことだった。
ご相談をいただいたTVボードのプランをご提案してからしばらく経った工房OPEN日、再度ご夫婦でお越しいただいた。奥様曰く、以前ここで見た山桜のダイニングテーブルが忘れられないのだと。TVボードではなく、ダイニングテーブルを作ってもらいたいという気持ちになってきたとのことだった。
最初にお越しいただいた時、ちょうど僕たちが製作した納品前の山桜のダイニングテーブルを置いていた。それがまさに奥様にとって理想のテーブルだったそうだ。素材の色味、質感がとても好みで、建設中のご自宅の雰囲気にもぴったりとくるものだったと言う。ご家族みんなが料理好きで、大人数で食事を囲むことも良くあるようで、ダイニングテーブルは大きなものが理想とのことだった。
ダイニングテーブルは無垢の木の風合いが前面に出る家具。ご自宅の内装は壁や床等、素材にこだわっているとのことだったので、僕たちもTVボードではなく、ダイニングテーブルを作らせていただくことに大賛成だった。
椅子を6脚並べられる大きなテーブル。お客様が最初から決めていた椅子がうまく収まるような寸法に設定して 製作を進めることになった。しかし、前回と同じルートで山桜材を仕入れようと思ったところ、もう無いと言う。馴染みの材料屋さんが北海道に仕入れに行くので探してきてくれるとのことだったのでそれに期待して待つことにした。しかし、返答は北海道にも無く、手に入らなかったとのことだった。お客様は無いのであれば系統の近いアメリカンチェリー材でも良いと言ってくれていた。チェリー材もとても魅力的な材料で、僕も好きな材料の一つではある。でも。この場合はやはりチェリーではなく山桜が絶対に良いと思った。なんとしても探し出したかった。知り合いに聞いてまわって、なんとか山桜を持っていそうな材料屋さんを紹介してもらうことができた。問い合わせると千葉県の倉庫に東北産の山桜を持っていると言う。すぐに見に行って満足のいく材料を仕入れることができ、ようやく製作を進めることができた。
ダイニングテーブルの製作を進めていくうちに、お客様は6脚購入予定の椅子のうち3脚はhalf moonの椅子にしたいとのご希望をいただいた。まずはテーブルを先行して製作し、half moon 02chairの革張りを3脚、お引越し後に製作することになった。
ダイニングテーブルが完成した時、ご夫婦で工房まで見に来ていただいた。山桜の柔らかく優しい色味がイメージ通りだと、とても気に入っていただいた。
さらに、「ここまで来たら、6脚全部half moonの椅子で揃えたくなった」と
奥様からとても嬉しいお言葉をいただいた。
そもそも最初に決めていた椅子が収まるようにテーブルを設計していたはずだったけど。それはまあ良し、と言うことになって01chairをさらに3脚製作させていただくことになった。


最終的にはダイニングテーブルと椅子を6脚。すべて製作させていただいた。きっとこのダイニングは、ご家族にとってこの新しい家での生活の中心となる場所だと思う。ご家族の日常とともに、長い時間をかけてじっくと変化しながら深みを増していってくれると思う。
takashi