自宅の改修と家具ーその3

今から4年程前に古屋を購入し、内部を改修した。

自宅の改修の内容としては、

①既存和室 →  キッチン/ ダイニングへ
②既存キッチン・リビング →  一室としリビングへ

既存の和室は8畳に一間の押入がある部屋。そこに出窓と掃き出しの窓がある。

前回のブログにも記載したけれど、キッチンに立ったときや座ったときに窓の向こうに空が見えたり視線が抜けることが、”心地よさ”を感じる大切な要素だと思っている。今回のキッチンの配置は機能を満たしつつ”窓との関係”を考えながらプランをしていった。出窓を利用してキッチンとし、空間の真ん中に箱を作り、そこにシンクと2人が座れる大きめのカウンターテーブルを配置、くるくる回れるようなプランとした。

40年前の新築のときの写真を見ると、和室の天井は2階の床根太が綺麗なピッチで入っていたので天井は木を生かし、壁は断熱材を入れプラスターボードで覆ってもらった。

↑天井仕上げを撤去すると綺麗なピッチで2階根太が見えてくる。

↑和室出窓部分。既存の壁に断熱のためスタイロフォームを貼り詰めてもらう。

↑出窓部分。プラスターボードを貼り、床も下地合板を貼り終え、大工工事も終盤。

さて、仕上げはどうしようか。

床は古い家にも合いそうな質感がある黒色のレンガタイルを選んだ。タイルは冷たいし固いので住宅には向かないかもしれないけれど、キッチンは寛ぐというよりは活動的な場所なのでタイルでよいと判断し、カウンターテーブルの下にはウールのラグを敷くことにした。

そして自分たちで製作するキッチンの天板は木を使うことにした。キッチンの天板として木を使うことで、無垢材がどう変化していくのか、その使い心地を確認してみたいと以前から思っていた。樹種は油分が豊富で水に強いチーク材。シンクの立ち上がりは北海道のクルミ材をリブ状に並べている。キッチンは日々使っているけれど、チーク材の天板は全く問題なく、むしろよい味になっている。使い心地もよく、個人的にはとてもよいと思っている。

壁は木の自然の色味が引き立つようあえて”塗装の白”とした。ガス台の正面の壁はタイルを貼り、上から壁と同じ色の塗料(ベンジャミンムーア艶あり)を自分たちで塗った。ここもどうなるか心配だったけれど、汚れも拭けるし問題なく使えている。

↑カウンターダイニングテーブルのスペース。床は黒のレンガタイル貼り。(国代耐火)

↑出窓を利用しキッチンを配置。天板はチーク無垢材としている。引き出しを3杯設置。

平面プランや仕上げの材料、細かい収まりなど色々と悩みに悩んだが、職人さんたちのおかげもあり改修は順調に進んだ。元々の建物を生かした天井もよい雰囲気となり、古さと新しさが融合した空間が出来上がった。キッチンに立ったとき、椅子に座ったとき、2つの窓を通して外を眺めることができる。窓の向こうに植えた南天の木もだいぶ大きくなった。窓を通して感じる季節や風景は唯一無二だと思う。

↑ 完成したキッチンスペース。椅子はHALFMOO FURNITUREのオリジナルchairc01とchair02。

私たちは食器や調理器具を多くは持っていないので収納は少なめだけれど、今は工夫しながら使っている。足りなくなったら、どこかに棚を増やしてもよいかもしれない。生活の変化によって、色々と変えていくのも楽しいと思う。

今までシンクの中には使った食器が山積みになることがよくあったけれど、このキッチンになってから食器をすぐ洗い片付けるようになった。ダラシがない私がそうなるんなんて、自分でも驚いている。家具や空間のあり方によって、生活する人の行動が変わるということがあるんだなぁと実体験を持って感じている。

改修して数年経った今もキッチンスペースにいるのはとても気持ちがよいし、楽しい。

(その4 へと続く)

kumiko

自宅の改修と家具 ~ その2

2021年の春、築40年の古屋に住み始める。私たち夫婦2人と犬1匹の暮らしが始まった。

改修を始めるまでの1年間、間取りをどうするかの前に、木造の古い家をどこまで手入れする必要があるのかを暮らしながら確認していった。まず、前オーナーが残してくれたこの建物を建てているときの写真をじっくりと何度も見返した。お風呂は基礎を1m以上の高さで打っているようだから、すぐにやり直す必要はないと判断。写真から床下は捨てコンをしていること、実際に床が沈んでいる様子もないので大幅にやり直す必要もないと思った。ただ、素人の判断なので早い段階で、お世話になっている工務店の方に家に来てもらい実際に内部と外部を見てもらった。屋根裏も覗き、断熱材(当時はグラスウール)が落ちている様子もない。木造の古い家だと、実際にリフォームをし始めると見えない部分で老朽化があり、費用がかさむことがある。カビ臭かったり、床がフワフワしていたりすると注意が必要だ。建物はしっかりと作られメンテナンスもされていたので、大きな修繕は考えずに間取りの検討を始めていった。

家はL字型、1Fは和室とLDKの2部屋と洗面浴室の構成。今回は1階のみ改修することにした。

「よし、まずは壁を一部壊して階段がどうなっているか見てみよう。」

「和室の天井を外したら、梁がどうなっているかわかるかな。当時の写真から見ると綺麗なピッチで入ってそうだけど。」

「吹き抜けの壁の一部を開口にしたらどうかな。 のこぎりで開けてみよう。」

予想通り、階段のササラは綺麗なラワン柾目無垢材、和室の天井も覗いているみると梁も無垢材でよさそうだ。元々の建物が持っているポテンシャルを生かし、私たちが心地よく住むにはどうあるのがよいか。生活をしながらじっくりと考えていった。

心地さを感じる要素の一つに、外と繋がっている「窓」との関係が大切だと個人的には思っている。窓からは光が射し、視線も抜ける。キッチンに立ってるとき、リビングやダイニングで座っているとき、窓がどのような位置にあるとよいか。もちろん、生活動線だったり、他の事柄との関係性もあるのでそう単純ではないけれど。「窓」との関係を重視しつつ、プランを詰めていく。

和室をキッチン+ダイニングスペースへ改修、LDKはキッチンを撤去し一室にし、吹き抜け部分の壁を開口し2階とも繋がるようなプランとした。

仕上げもほぼ決めて、改修工事は職人さんもみんな知っている飯石建設にお願いすることにした。よく、「自分たちで改修工事もしたのですか。」と聞かれることがある。もちろん、やってやれないことはないけれど、その道でずっとやってきた職人さんたちにお願いしたほうが、綺麗だし早い。そして、何よりその仕事を見ることはとても興味深く、楽しい。私たちは家具のみ造ることに専念した。

担当してくれた大工さんはとても腕のよい”菊地さん”。日々、目の前で進んでいく菊地さんの仕事は、予想以上に素晴らしかった。毎朝工房に出かける前に、チラッと菊地さんの仕事を見ていつも思っていた。

「魔法使いのようだな。」

数年経った今でも、その姿を思い出すとワクワクした気持ちになる。

その3 へ続く

kumiko

高知へ -その2(木の子編)

2頭の犬(Rとマイカ)と暮らす大塚友野さんのところは僕たちの犬の「木の子」の実家でもある。

6年前の冬の終わり、友野さんが一緒に暮らす犬の「R」と隣家の雌犬「L」の間に5頭の子犬が生まれ、貰い手を探しているという話を友人づてに聞き(というか、その時その友人はちょうどいいのがいると、すでに僕たちのことを紹介していたらしいけれど)、その中の1頭を引き取ることにした。それが木の子であり、友野さんのもとに残すことにした1頭がマイカだ。

以来、東京で友野さんの個展があるときには遊びに行ったり、時々犬の情報交換をする関係になった。

そんな縁で今回友野さんに作品制作を依頼するにあたり、一度高知に伺おうということになり、せっかくの機会だから木の子も一緒に連れて行くことにした。そもそも日頃からどこに行くにも連れて歩いているので、そうでなくても一緒に行くことになっていたのだろうけど。

僕たちにとってもRとマイカに会うのは木の子がうちに来た日依頼。当時Rは1歳、マイカは3ヶ月の子犬だった。その後SNSで見ていたし、話としては聞き知っていたけれど、実際に会った瞬間、その大きさの違いに驚いた。

木の子21kg、Rとマイカは10kg程度。実際の見た目のボリュームも本当に半分だ。顔や表情、仕草はとてもよく似ている。でも存在感が全然違う。。確かに子犬の頃から他の兄弟たちと比べて木の子は明らかに一人大きかった。手足の太さも全然違った。それにしても姉妹でこんなにも違うものか。さすが雑種。

生後3ヶ月で別れた父、姉妹との対面、しかも彼らのテリトリーで。警戒心の強いこの子たちの気質を考えると難しいだろうとは思っていたけれど、予想通りみんな警戒モード。SNSでよく見る陽気な犬たちの平和な里帰りとはいかない。みんな揃って穏やかに集合写真なんて全然無理だった。唯一撮れていたスリーショットは友野さんが撮っていた一枚。木の子の背後で、家の中から警戒するRとマイカ。

子犬の頃によく甘えていた母親なら覚えているかなと思っていたけれど、残念なことに2ヶ月ほど前に亡くなってしまったとの連絡をもらっていた。

まだ残されたままの、木の子たちが生まれた母犬の小屋。

Rとマイカのことは覚えてはいなかったみたいだけど、この場所はなんとなく覚えているのか、それとも単純に野山が大好きだからなのか、木の子は終始ニコニコして高知の山を楽しんでいた。

takashi

高知へ

製作のご依頼ををいただいている教会の洗礼盤のボウル部分の打ち合わせのため、漆作家の大塚友野さんに会いに高知県に行ってきた。

最初に洗礼盤製作のご相談をいただいた時、お客様は台座は木製、聖水を入れるボウル部分は金属製というイメージをお持ちだった。でもお話しを進める中で、工業的なものよりも工芸的なものを希望されていること、今回のご依頼に至った想い、そのプロセスも含めた物語性を大切にしたいということを伺い、ふと思いついて工房に飾っていた大塚友野さんの漆のボウルをご覧いただいたところ、その質感、漆工という日本の伝統的な技法であることに強く興味を持っていただき、この方向で進めていくことになった。

その後お客様と何度か打ち合わせをする中で友野さんの作品の写真をご覧いただき、仕上がりのイメージが固まってきた。友野さんとはオンラインの打ち合わせで進めることもできるけれど、最初のイメージをできるだけ正確に共有してスタートしたかったのと、僕たちも製作を進める上で友野さんの制作風景を想像しながら進めたかったので、直接会いに行くことに決めた。

高知市内からはだいぶ離れた吉野川沿いの国道から分かれた北側の山の斜面の細い坂道をどんどん登る。こんな山の斜面に集落があることがとても不思議に思えた。国道から離れ20分近く登ると尾根近くの小さな集落に着いた。ここまで登ってくると山村なのにとても明るい。南側は吉野川が流れる大きな谷で、向かいにはここと同じぐらいの高さの山々が連なっている。その谷いっぱいに太陽の光をたっぷりと含んだ空気がふわっと溜まっているような不思議な風景だった。そんな場所の古い平屋で友野さんは2頭の犬と一緒に暮らしている。

都会で生まれ育った彼女がここに来てもう7年。ここでの暮らしは心地良く、体の調子もとても良いのだと言う。この土地の風景も時間も暮らしている人たちの感覚も、全てが友野さんの価値観にしっくりくるのだと思う。

お風呂もトイレも家の外だし、やっぱり冬は寒いし、見方によってはとても不便な暮らしとも言えるけれど、ここでそんなことを話題にすること自体ナンセンスだと思えるぐらい彼女にとってそれらは普通のこととして、この土地に根ざして暮らしているように見えた。自分の価値観と真摯に向き合いながら生きている姿はとても魅力的で羨ましくもあった。

南側の山々を窓越しに眺めながら、尽きない話を一度中断して、洗礼盤の打ち合わせ。

お客様の想いを伝えるとしっかりと受け止めて咀嚼してくれている様子がとても印象的だった。

漆のボウルは、最初に型を作ってそこに麻布を沿わせ漆で固めながら形を作っていく。乾かしてまた麻布を敷いて漆で固めて、必要な厚みまで繰り返す。とても手間と時間のかかる作業だ。外側の最後の仕上げは黒に近いグレー。内側はグレイッシュなベースに錫を撒いた仕上げにする。これから数ヶ月かけて制作を進めてもらう。

実際にこの場所に来て、ここの空気を感じることで、礼拝堂から僕たちの工房を通ってこの場所までの風景が繋がったものに感じられた。

takashi

自宅の改修と家具 ~ その1

3年半ほど前に築35年の古屋を購入した。

それまでは、賃貸の小さな平屋に住んでいた。普段帰ってくるのは夜だし、休みもほとんどなかったから家にいることもなく、引っ越した段ボールもそのままの状態で、倉庫に住んでいるような生活をしていた。

たまにお客様に「ご自宅も素敵なんでしょうね」なんて言われることもあったけれど真逆な暮らしをしていた。家具を作ることに精一杯で自分たちの生活を顧みる余裕なんて、最初の10年は全くなかった。

ただ、少しずつ無垢の家具の心地よさや楽しさを自分たちが実際に使い、確信をもってお客様にご提案したい。家具の機能やデザインが、私たちの生活から生まれるものでありたいという思いが出てきた。自分たちの作った空間や家具がある家を持ってみたいという好奇心が生まれた。

家具を製作する仕事は、地方(関東圏以外)でも成立する仕事だから今の場所にこだわる必要もない。だけど、私たちの家具作りは「お客様との対話」をとても大切にしている。直接お会いしたりご自宅へお邪魔し、価値観を共有することが家具を製作する上で必要なことだと思っている。そういう点では今の場所を離れる理由もない。

今の工房から車で行き来できる場所を探した。

建築基準法が改正された後、1975年以降に建てられて、できるだけ古く安価な物件を探した。ただ、安いというのはあたりまえだけど、安い理由がある。場所や日照条件、土地や建物の広さなど。

何を優先するか。まず、場所の雰囲気が自分たちに合うかどうかを重視した。次は敷地との関係を考慮した家であること。考えて作られたものにはどんなものでも魅力がある。家具はもちろん、家も同じことがいえると思っている。

具体的に探し始め、4,5件ほど見てもしっくりくる家はなかった。

そもそもわたしたちの希望に合う家なんてあるのか。戸建にこだわらず、集合住宅にして家具を充実させた空間でもよいのではないか。

楽しく暮らせる方法をあれこれ考えているとき、工房から車で15分ほどの場所に条件がちょうどよさそうな家をnetで見つけた。翌日に内覧。その場で買うことを決めた。

そのとき既に築35年、土地は玉石擁壁があり新築するには不利な条件だが、改修して住むことを考えていたわたしたちにとっては、特に大きな問題はではなかった。何より、ここ以外に自分たちに合った条件の家と出会えるとも思えなかった。

契約が進んだころ、不動産の方が「こんな資料があるのですが、要りますか?不要であればこちらで処分します」と数冊のファイルを渡してくれた。確認申請時の青焼きの図面一式と検査済書、そして新築時に施工会社とどんなやりとりがあったかの議事録、家が建つ前から工事中、完成までの写真一式。とても丁寧にまとめられた資料だった。

「もちろん、受け取ります。」

わたしたちにとってはその全ての記録が宝物のようだった。

何回も何回もワクワクしながら写真を見た。

実際に住み始めてみると、ここに住んでいた方がとても丁寧に暮らしていたことが伝わってきた。

そして、1年後改修へと進んでいく。

kumiko

チェリー材の本棚

本棚

前回、私がブログを書いてからもう1年以上が経ってしまった。SNSやブログを通して、普段作っているものや考えていることを伝えていきたいとは思っているけれど、すっかりブログから遠のいてしまっていました。

ずいぶん前に製作した家具の紹介になります。

アメリカンチェリー材の本棚を製作しました。お客様の事務所の壁に文庫本が入る本棚を作って欲しいとのご依頼でした。

条件としては

・事務所を移動したことを考え、自分で運べるようにしたい。出来れば片手で持てるサイズが良い
・文庫本、単行本が入る高さと奥行きが欲しい
・大切にしている作家さんの絵を置けるスペースが欲しい

本棚
本棚

設置する場所の高さと幅、入れたい本や飾りたい絵の作品の寸法は決まっていたので、条件を満たしつつ本棚が綺麗に見えるディテールを検討していきました。上下、左右の対称性や凸凹の収まりと目透かし。

形を組み替えることで色々な場所に対応できる、積木のような本棚が完成しました。

チェリー材本棚

アメリカンチェリー材で製作したこの本棚は、使い込むほどに渋い色味に経年変化していきます。

この先、どんな場所へ移動しても、どんな使い方をしても、その空間が楽しくなる存在になってくれれば嬉しいです。

kumiko

Obscura Coffee Roasters HOME

obscura coffee

三軒茶屋Obscura Coffee Roasterが駅にほど近い場所に新たな店舗”HOME”をopenさせることになり、その家具製作を担当させていただいた。

全体の店舗デザインはこれまでにも何度も一緒に仕事をしているstudio gd。

計画段階からObscura側から全体の雰囲気のイメージとして「土っぽい素材感」というキーワードが上がっていた。それは彼らがいつもコーヒー豆を仕入れているアフリカの農場や周辺の建物の素材に通じるイメージだった。

以前から探っていたあえて表面を平滑に仕上げず、荒木の凹凸を生かした無垢材の使い方が今回のイメージに合うのではないかと考えた。

表面を平滑に仕上げた木の深い艶と違い、ざらっとした荒々しい木肌は光を吸収して柔らかな奥行きのある質感が表れる。今回は厚みのあるラワンの無垢材をこのような仕上げ方で使いたいと考えた。サンプルを作り提案したところとても気に入って頂き、広い店舗全体にラワン無垢材をふんだんに使ったデザイン案がまとまった。

大きな木製建具の入り口を入ると両サイドにコーヒー豆などを並べる大きな壁面収納。正面にカウンターとその奥にオープンな厨房スペースが広がる。カウンターでコーヒーを注文して店内で過ごしたい人は隣の空間に移動する。そこは淡いピンクがかった漆喰壁に包まれたしっとりと落ち着いた空間が広がっている。壁に沿って分厚い無垢板のベンチがずらっと並び、Obscuraが長年集めてきたアフリカの民具が散りばめられ、土っぽく荒々しい素材感と落ち着いた上品さが調和した心地良い空間になっている。エチオピアのコーヒーテーブル、インドのスツール、今回製作したベンチ、それらを各々が好きな場所に移動させて好きな場所で自由に過ごす。季節や時間帯、天候、絶えず移り変わる明るさ、目の前の通りの風景、その時々に流れる時間を楽しめる新しい感覚の素敵な客席のあり方だと思う。

obscura coffee
obscura coffee

Obscuraはいつも表と裏を区別しない。バックヤードやスタッフルームだからといって家具の仕様を落とすことはせず、お客さんに使ってもらうものと同じものをスタッフにも提供して裏方であってもできる限り気持ちよく過ごせるように考えられている。

そういうスタンスがObscuraのコーヒーから滲み出る丁寧さに繋がっているのだと思う。

takashi

仕上げについて

比較的真面目に家具作りをしているつもりでいる。基本的には古くから受け継がれてきた正統的な技法を使って作り、仕上げている。無垢の木をカンナで削った木肌に現れる複雑な色味や深い艶は見飽きることがない。

一方でそうやって作った家具は堅い印象にもなりやすい。もう少し自由な雰囲気が出せないものかと思うことがよくある。

以前、ショールームの床材を自作した時、バンドソーで製材した際に付いた鋸刃の跡を削り落とさずにそのまま残して仕上げてみることにした。当初は木目と直行して無数に走る鋸刃の跡のテクスチャーがおもしろいのではという狙いだったけれど、実際に床に敷き詰めてみるとそれよりもその凹凸による光の反射にとてもおもしろい効果があった。正確には反射というより吸収。柔らかく光を含んで、ふわっとした質感に感じられた。

これを応用して家具の仕上げにも使えないものかと模索している。カンナで平滑に削った艶やかな仕上げとは全然違う無垢の奥行きが生まれるのではないかと思っている。

studio gdのデザインで現在進行中の三軒茶屋OBSCURA COFFEEの新店舗。今回その家具を担当させていただいている。

計画段階から全体の雰囲気のイメージとして「土っぽい素材感」というキーワードが上がっていた。それならここのところ模索している無垢の荒さを残した仕上げ方が合うのではないかと考え、実際の材料でサンプルを作って提案したところ、とても気に入っていただいてこの方向で進めることになった。

同じ豆でも精製方法や焼き方で全く別の魅力を引き出すコーヒーの世界。アイデア次第で木もそれに近い活かし方ができるのかもしれない。

ナラ無垢材 ラワン無垢材 ラワン無垢材

takashi

Cafe Roof Okurayama ダイニングテーブル

オーク ダイニングテーブル

ナラ無垢材 w2130 x d930 x h700

家具を作るとき、これからお客様の日常の記憶を刻みながら長い年月をかけて変化してゆく様子を想像したり、それを一つの魅力として説明したりすることがある。

だけど、当然それはこれから作るものにだけ当てはまるわけではない。そこで役目を終える家具がある場合、そこにも必ずたくさんの記憶が刻まれているということを忘れてはいけないと改めて思う。

大倉山のカフェroofのダイニングテーブルもそうだった。34年間使ってきたとのことで、ご家族の様々な日常の記憶、カフェをはじめてからは、たくさんのお客様がそこで過ごした時間の記憶を刻んできたのだと思う。 

最初は新しく作るのではなく、天板のみの作り替えなどの可能性も探ってみたけれど、最終的にはこれから長く使うことを考えて、今回は新規で製作させていただくことになった。

大きなイメージチェンジは必要ないと思った。もともとのテーブルの丸みを帯びた柔らかなイメージに少し近づけるために丸脚のデザインとして、印象を少し合わせることで今までの記憶を継承しながら新たなスタートとできればと考えた。シンプルでバランスの取れた良いテーブルを目指して、部材の寸法、脚の太さなど、細かく検討してゆく。シンプルな分、木目の選び方も全体の印象に大きく影響する。roofの内装、店主ご夫妻の雰囲気を想像しながら、目の詰んだ上品な柾目のナラ材を選定した。オーダー家具を製作する場合、その家具が置かれる空間に合うかどうかと同じくらいそれを使う人に似合うかどうかも考える。それがオーダーでものを作る面白さでもあるように思う。

ナラ ダイニングテーブル ナラ材 ダイニングテーブル

出来上がったテーブルはお店の雰囲気にも自然に馴染んでいて、店主ご夫妻にも似合う良いテーブルに仕上がったと思う。

takashi

勉強机

ナラ材 勉強机

8年ほど前、ご自宅の新築に際してダイニングテーブル製作のご依頼をいただいて依頼、何度となく家具を製作させていただいている茅ヶ崎市のお客様から小学校2年生になった息子さんのための勉強机のご依頼をいただいた。

この8年の間にご自宅にも何度も伺い、これまで作らせていただいた家具をとても大切に使っていただいている様子を見ている。特に日々触れるものとして、その素材の風合いを楽しんでくださっているのがよく伝わってくる。

木目に関して、独自の好みがあることもこれまでのお付き合いの中でよく知っている。ナラ材はとても好きだけど、柾目に出る虎斑は好きじゃないとか。

好きだからこそ、好き嫌いがあるのは当然のことで、その中で本当に好きなものに日々触れられることはとても心地良いことだと思う。

「無垢だからしょうがない」ことは多々あるけれど、ただ「しょうがない」だけではなく、もう一歩先まで考え、できるだけその人にとって心地良いものに仕立てることが僕たちの役目だとも考えている。

打ち合わせの際、実際に作っている場で息子さん自身に材料の選定をさせてあげたいと、ご家族揃って工房にお越しいただいた。

ご両親も好きなナラ材を選んで製作を進めることになった。

形は至ってシンプル。必要な機能を満たしながら、素材の魅力を引き出すように手を加えてゆく。時間と共に風合いが増して、自分のものになっていくように。

息子さんにとって心地の良い居場所になってくれると良いと思う。

takashi

ナラ材のダイニングセット

ナラ材 ダイニングテーブル

ある工房オープン日にご夫婦でお越しいただいた時が初対面だった。実はご主人のご実家にはこれまで何度もお邪魔していたけれど、そこでお会いする機会は一度もなかった。

以前、ご自宅マンションをリフォームされた際に、すでに独立した息子さんの部屋をつぶしてしまい、時々帰ってきても寝る場所がなくなってしまったため、ベッドとしても使えるソファが欲しいとのご依頼をいただいたことがある。

そのお客様からはその後も度々製作のご依頼をいただいている。そしてこの度、息子さんご家族がマンションを購入したとのことでダイニングセットを製作させていただくことになった。一度ご依頼をいただいた後、何度かリピートしてくださるお客様は多いけれど、親子2代に渡って製作させていただくのは今回が初めてのことだった。

工房での打ち合わせで、ダイニングテーブルのデザインが決まり、椅子はご主人が01chair、奥様が02chairとそれぞれ気に入ったものを選んでいただいた。さらにペーパーコード張りのスツール2脚も合わせて製作することになった。

 ダイニングチェア  halfmoon01ダイニングチェア

ご実家で僕たちの家具に触れていただいたことが、ご自宅の家具として迎えていただくきっかけになったことがとても嬉しかった。

ご家族の歴史を刻みながら育っていってくれると良いと思う。

takashi

楢材のキャビネットとメープル材のキャビネット

東横線、大倉山駅の近くにあるCAFE 『ROOF OKURAYAMA』のキャビネット収納を製作させていただきました。

工房オープン日にお越しいただき、その後わたしたち2人で置かれる場所を見にCAFEに伺いました。

線路脇の丘を登ると、中庭に大きな木のあるとても気持ちのよいCAFEで、北欧の建築家”アアルト”の設計する住宅を彷彿させるような雰囲気でした。

お客様のご希望は、長年使ってきたキャビネットと同じ機能が欲しい、扉の一部を白くしたい、将来的には2つに分けて使うことを想定したいとのことでした。どの部分を白とするか、全体の機能を考えながらラフスケッチで何パターンか検討していきました。最終的には楢と白は"面"で分けるのではなく、"立体"として分けていくことを提案しました。楢材の板と、楢材の箱、白い箱がそれぞれ重なっていく構成です。その立体構成で楢と白の配置をデザインに落とし込んでいきました。また、立体で素材がわかれていることで、どの角度からみても同じ印象になります。

経年に伴い、長く使い込まれた他の家具と馴染み、このCAFEの風景の一部となっていくことを想像するととても楽しみです。

そして納品後の工房オープン日、平塚にお住まいのROOF店主の弟さんご夫婦が工房にお越しくださいました。お店でキャビネットをご覧いただいたとのことで、似たデザインのキャビネットの製作のご依頼をいただきました。ご希望はすべてメープル材、引き出しは4杯ほしいとのことでした。

このキャビネットは本体と扉には、無垢材を薄く削ったもの(t1.5~2mm)を表面の材料として製作していきました。メープル材のもつ固有の魅力をキャビネットの形の中で表現できるよう、木材の選び方と木目の配置にはとても時間をかけました。

納品したお客様のご自宅は、高い丘の上にあり、ダイニングの窓にはまるで小さな模型をみているような風景が広がっていました。新幹線の線路、小さな家々、大きな空。その窓のとなりにメープルのキャビネットは設置されました。

リビングにはご夫婦の大切にされているたくさんの小物や作品が壁や棚の上に置かれ、それにまつわるお話を楽しく聞かせて頂きました。

大切につくられたり、年月が経って過ごしたものにはそれぞれ自然と物語が生まれると思います。

わたしたちのような『つくっている人』を知ってくれることで、その物語が少し楽しいものになればいいなと思います。

建物の窓は外の風景を切り取るものですが、家具は内部の風景を作るとものだと思いながら、日々家具をつくっています。

kumiko