
以前、ギターの練習用にとスツールをご購入いただいた小平市のお客様から、ベッド製作のご依頼をいただいた。
僕たちも大好きなジャンゴ・ラインハルトが好きで、ギターはマカフェリを愛用しているとのことで話は尽きなかった。
僕たちの工房のすぐ近所のアレックスのお店では時々ジプシージャズのライブイベントをやっている。そのことをお話しすると、ミュージシャンは誰が来ているんだろうと、とても興味を持たれていた。
ある時、「寺家町に『里の縁側』っていうお店ありますか?今度私、そこで演奏するみたいです。」というご連絡をいただいた。
まさか。そこが以前話していたアレックスのお店だ。そんな近くに家具の話とは全く関係なく来ることがあるとは。そんな偶然があるものなんだなと驚いた。
ベッドは多くの場合、他人に見せることは全く前提としない、かなり個人的な家具になる。毎日触れるものであると同時に、日々が終わり、そして始まる自分だけの場所になる。誰がなんと言おうと、自分だけの絶対的に気に入った居場所になって欲しい。
経年変化が特徴的なチェリー材を使い、無垢材の風合いを最大限に活かしたシンプルなデザインで提案させていただき、下段には圧縮袋に入れた冬用の布団が収納できるサイズのワゴンを2台設置することになった。
日々、木の家具を製作しているけれど、毎回毎回迷う。製作の最初の工程で迷う。木の使い方に迷う。どの部材にどんな表情の木を選ぶか、どんな順番で並べるか、どの向きで使うか、使える限りの材料を並べて想像しては迷う。デザインはすでに決まっているし、構造的に問題が出るような欠点のある材料はそもそも使わない。だからどの材料をどう使おうと決して不正解ではない。だけど、木にはそれぞれに二つと無い木目がある。同じ形のものを作るにも、そのどの部分をどう使うかによって全く違った表情のものになることは間違いない。その使い方を間違えればその形を台無しにしてしまうのではないか、という恐怖心も常に持っている。せっかく木を使って形を作っていくのだから、今できる最高の表情を引き出したいと思う。そこは一つ一つ手で作られる家具の大きな魅力の一つだと考えている。目の前に並べた木を見ながら、完成形を想像し、お客様との雑談を思い出しながら正解のない答えを出してゆく。僕は、そのうずうずしながら苦しくて、楽しい、その迷いの工程がとても好きだ。
takashi