寺家回廊2013

10/12(土),13(日),14(月)の三日間、

工房にてHalf Moonオリジナル家具、小物の展示会を行います。
多くの方々のご来場を心よりお待ちしています。

小さな青い花

 

朝、いつものように工房の植物たちに水をあげていたとき、ユーカリの鉢の陰の雑草の中、
葉の間に隠れるように咲く一輪の小さな青い花を見つけた。
控えめに、でも確かな生命力を持って咲く姿がなんとも可愛らしく、しばらく眺めていた。
「あれ?」と思う。花の部分だけ葉の形が違う。
その葉だけが真ん中から折れて閉じているのに対し、その他は全て太陽に向かって開いている。
茎づたいに茂みの中を探ってみると、もう一枚、しっかりと閉じている葉を見つけた。
そうか、と思い、指でそっと開いてみる。
見落としてしまいそうなほど小さな自然の営み。なんと神秘的なのだろう。
しっかりと葉に守られたこの小さなつぼみは無事咲くことができるだろうか。
takashi

いつの間にか。

しばらく忙しくしていたせいか、あまりに見慣れた風景になってしまったせいか、

ほとんど気に留めなくなってしまっていた工房周辺の田んぼ。
いつの間にか稲はすっかり熟し、稲刈りの季節になっていた。
7月のはじめ、一番最後に田植えをしていた矢口さんの田んぼでも、刈り取られた全ての稲が
束ねて干され、秋の風景が広がっている。
「いつの間にか」と思うのは少し寂しい。日々、身近な自然に目を向ける心の余裕を
持っていなくては、と思う。
takashi

CUCHE Gabbeh Khaneh

桜木町、コレットマーレ5FにCUCHE Gabbeh Khaneh という手織りイラン絨毯「ギャッベ」

のお店がオープンした。
今年、縁あってギャッベハネのラナイ社長と知り合うことができ、以前から大好きだった
「ギャッベ」の展示用台を製作させていただいたことがきっかけで、今回新しいお店のオープン
にあたり、ほとんどの家具の製作を任せていただいた。
絨毯展示用のステージ2台、レジカウンター、テーブル、シェルフ、イラン化粧品販売用
の洗面台等々。かなりのボリュームに8月から2人でかかりきりで、忙しくも充実した製作
の日々が続いた。
ある朝、工房に行くと製作中の洗面台の扉の影からヤモリの赤ちゃんがこちらの様子を
伺っていた。何とも愛らしい姿に思わず笑ってしまう。忙しい日々の中、こういう小さな
ことに心を和まされる。その日は朝から扉の調整をするつもりだったけれど、やめにして
別の作業を進めることにした。
店舗の工事に合わせ、なんとか全ての家具の製作を完了、納品し、お店は無事オープンした。
CUCHE Gabbeh Khanehで取り扱っているギャッベは、全てイランから直接買い付けてくる
本物の手織り絨毯です。お近くにお越しの際は是非お立ち寄りの上、羊毛の素材感、
草木染めの風合いに手で触れて、遠いイランの大地に想いを馳せてみてください。
またCUCHE Gabbeh Khanehでは、今後、ギャッベに合わせたデザインのHalf Moon
オリジナル家具も展示販売してゆく予定です。
takashi

久しぶりに鉄の仕事。
テーブルの脚とシェルフのフレームを溶接して組みあげてゆく。木とは違った存在感があって

わくわくする。

先に作って仕上げておいたナラの天板、棚板を取り付けると、全く異なる素材が組み合わさる
ことでまた別の表情を見せてくれた。

僕たち作り手が目指すべきことは、素材の持つ魅力を最大限に引き出すことだと思う。
そのためのアイデアと技術。それは決して奇抜なものを作り出すための飛躍した発想や、
それを具現化するためのテクニックではなく、素材に寄り添いほんの少し手を加えることで、
そのものが本来持っている魅力を表に引き出すための謙虚な想像力と、少しの技だと思っている。
ふと、BUENA VISTA SOCIAL CLUBをまとめるライ クーダーの姿を思い出した。
キューバで長年の経験を持つミュージシャンたちを集め、一つの作品を作り上げてゆく
中で彼は、決してミュージシャンたちを自分のスタイルにはめこんでゆくことはせず、
常にミュージシャンたちの個性や経験に敬意を持って寄り添い、彼らの魅力を最大限に
引き出していった。結果、典型的なキューバの音で構成されていながら一部を聴いただけで
それとわかる、とても個性的で特徴ある作品に仕上がっている。
本当の個性は強烈な自己主張から生まれるとは限らない。

出来上がったものを眺めていると、そこで知ることが必ずある。それが次への
アイデアとなり、想像力となる。一つ一つがとても貴重な経験になっている。
学ぶべきことは決して尽きることがない。だからものづくりはおもしろい。

takashi

ふと思うこと

 ここ寺家町に工房をもってから5ヶ月が過ぎようとしています。

半年も経っていないのに、数年経ったような、そのぐらい色々な経験をさせてもらった気がします。
日々のものづくりを通し、いろいろな世界に触れることができます。
作り手とのやりとりを大切にしながら、家具をお願いしてくれるひとたち。
長く使っている家具を修理し、生活を楽しんでいるひとたち。
自分のお店を素敵にするために、オリジナルの家具を頼んでくれるひとたち。
量産され便利で安価なものが沢山ある中で、ときどき自分たちも
この社会の渦の中にいつの間にかのまれていることがあります。
憧れのお店「grass B」の店主のブログにこんな一文をみつけました。
「便利で簡単、効率的なものはゆったりとした時間がかすめとられてゆくみたいで
心地よくない。
 普段感じることは自分の理想と多くの人に支持されるものとは別だということ。
『隙間』で苦しいときは適度な余白を作って流れを起こそう。」
完全に渦の中に入ると、抜け出せなくなってしまうかもしれません。
まだスタートしたばかりですが、ときどき余白を作って
別な流れを作りながら、自分たちが思う心地よいものを表現していきたいと思います。
夏の晴れた日に、干した洗濯物が風で揺れるのをみながら、ふとそんなことを思いました。
kumiko

作家の椅子 2

ある作家さんから製作依頼をいただいていた椅子とブックスタンドが完成し、納品してきた。

50年もの間大切に使い続けてきた思い入れのある椅子に替わるもの。
お渡しするとすぐにご自身で二階の書斎に持って上がり、デスクの前に座り、感触を
確かめるようにパソコンを開く。いくつかのウェブサイトを見ながら雑談していると、
とてもよく馴染んでいるのが伝わってきて安心した。

古い椅子も解体修理し、座面を張り替えてお返しした。裏には8/10 ’61の文字。この椅子が
この家にやってきた日付だった。今から52年前の夏の日。
一つの役目を果たした古い椅子。これからは家族の集まるダイニングに置かれることになった。
家具作りはいつも物語りに満ちている。
takashi

フィジーからの声

 電話が鳴ったのは、作業台の上に散乱したかんな屑を片付けているときだった。

「もしもし」
「Hello, Bula, Bula re」
「え?? あれ? ハロー」
「Bula,Takshi !」
僕が2012年3月まで2年間住んだフィジーの友人、テキニからだった。
受話器の向こうから聞こえる懐かしい声。その声から彼の人懐っこい笑顔をはっきりと
思い浮かべることができた。

話しながら僕は、帰国前日、首都のマーケットで突然後ろから名前を呼ばれ、振り返ると
笑顔のテキニが駆け寄ってきて僕に抱きついてきたときのことを思い出していた。
2年間僕が暮らしたバヌアレブ島の片田舎の村、レケティから遠く離れた本島の首都で、

しかも帰国前日に、よく知った友人とばったり出会った驚きとうれしさを今でも
はっきりと覚えている。その後僕らは、マーケットの裏の路地に並んだ小さな安食堂で
最後の昼食を一緒に食べて、別れた。

電話の向こうのテキニは、最近のレケティの様子を話してくれた。
近い将来、レケティにも電気が通るらしいこと(僕がいた頃はレケティには電気が
通っていなかった)。毎晩のようにカバ(植物から抽出するフィジーの伝統的な飲み物。
アルコールではない)を飲んで、一緒にどろんと酔っ払っていた副校長のマスタービリが
別の高校に異動して校長になったこと。テキニの姪っ子で、僕の隣人だった若い教師、
アギーが結婚したこと。
次から次へと出てくるなつかしい名前。立場や環境が少しぐらい変わったところで
彼らの生活は何も変わらないだろう事が想像できる。暑いときには大きなマンゴーの木の下に
座って涼み、のどが渇けば生徒を使って椰子の実を採らせて、ココナッツジュースを飲んで、
夜になれば仲間と何時間もカバを囲んで酔っ払う。
そんな世界から帰国してもうすぐ一年半が経つ。
僕も、去年結婚したこと。三月から自分の工房を持って家具を作っていること等々、近況を話した。

電話を切った後もしばらく、僕の頭の中ではさまざまなフィジーの音が鳴っていた。
友人たちの話し声、馬の嘶き、鳥の声、遠くでまわり始める発電機のエンジン音、
それが止まるときの静けさ、そして木工科のワークショップで生徒たちが作業をしている音、
誰からともなく始まる彼らの歌、笑い声。
それは僕にとって、時々思い起こすことができる「もう一つの世界」になっていた。

takashi

夏野菜

畑仕事を終え、ふらっと工房に現れた矢口さんが分けてくれた夏野菜。
「これから孫と約束してるんだ。」と、うれしそうに帰ってゆく矢口さんを見送りに表に出ると、
深い青の夕暮れの森は、ヒグラシの声で充たされていた。
幸せだな、と思う。
takashi

作家の椅子 1

とても大切なものをお預かりした。
その作家さんがこの椅子を使い始めたのは50年も前のことだそうだ。お父様から贈られた
という子供用の勉強机と椅子。子供のころから使い続けてきたその机と椅子で、今も文章を
書き続けている。
さすがに古くなった椅子は、何度か別のものに換えてはみたけれど、どうも馴染まなかったという。
長年にわたる物語の中で確固たる居場所を築いてきたものには、どんなものにも取って代わる
ことのできない本当の価値があるのだと思う。
とはいっても、このまま使い続けるのももう限界ということで、この古い椅子をモデルに
座面の大きさ、高さを少し変更して新しいものを作ることになった。
古い椅子も一度分解、修理し、座面の布地を張り替えてお返しすることにした。
古い椅子の寸法、角度をもとに原寸図をおこし、強度を考慮して構造を見直す。
製作は順調に進み、組み立てまでが終了した。
このあと、座面と背の布地の張りが出来上がってくるのを待ちつつ、全体の仕上げ、塗装をしてゆく。
takashi

ギャッベ展示台

以前から、イラン絨毯ギャッベがとても好きだ。

広大な大地で育った羊の毛糸の風合い。草木染めの柔らかな発色。そして何より、遊牧民たちの
暮らしの中から生まれたあの素朴なデザインは、見ているだけで穏やかな気持ちにさせられる。
いつか気に入りのギャッベを一枚買って、心地いい風の吹く、よく晴れた日曜日の午後に
森の見えるテラス(そんなテラスはうちにはないけれど)に敷いて、そこに横たわり、
遠いイランの大地に思いを馳せながら昼寝でもして過ごしてみたいなあ、などと妄想ばかりを
膨らませていたところ、縁あって、イラン、カシュガイ族のギャッベの輸入販売をしている
GABBEH KHANEHのラナイ社長と知り合い、ギャッベ展示用ステージの製作依頼を頂いた。
ギャッベを敷いてしまえばほとんど見えなくなるとはいえ、ギャッベの素材感を生かす
ようなものにしたいというラナイさんのご要望から選んだアメリカンチェリー材が
ギャッベにとても良く合っていた。
GABBEH KHANEHは現在、桜木町コレットマーレ2Fでギャッベやキリム、イラン雑貨等の
展示会を開催している。
9月には同ビル5Fに新店舗をオープンする予定。
takashi

 僕の工房にはよく蜂が来る。

よくというのは毎日、しかも何度も何度も。来るというより、いつもいると
言えるかもしれない。
とはいっても、お互いそれぞれのことに忙しく、特に干渉し合うこともない。
一度、長い材料を振り回しながら木取りをしているときに、天井近くにいた蜂に気付かず、
材料を当ててしまいそうになり、怒らせたことがある。突然僕の近くまで降りてきて、
ぶんぶん、ぶんぶん。
「ちょっと待ってくれよ。そんなつもりじゃなかったんだから。」
言ってみてもわかってもらえず、落ち着くまでしばらく作業を中断して待つよりほかなかった。
時にはそんなこともあるけれど、基本的にはまあ、お互いうまくやっている。
先日、隣の小沢さんが蜂の巣をくれた。小沢さんの作業場の入り口に作られていたものらしい。
なんてきれいに作るんだろう。しばらく2人で見とれていた。
それにしても不思議だ。みんながそれぞれ何をどう作るのかわかっているのだろうか。
それとも監督みたいな蜂がいて、指揮しているのだろうか。
日本中、世界中どこに行っても、いつの時代にも同じ構造、同じ形のものを作っているなんて
とても神秘的なことに思える。
その巣は工房の窓際の棚の上に置いておくことにした。
takashi