僕はゲジゲジが割と好きだ。
大きく足を広げて壁に張り付くその姿は、見慣れない人にとっては気味の悪いものかもしれないけれど。
以前、僕の住んでいた海の近くの古い平屋は、ゲジゲジの多く出る家だった。玄関に、キッチンに、寝室にも。いつも、いる。
僕も最初は彼らに出会うとその姿にぎょっとして、仕留めなければと、戦う姿勢をとっていた。しかし、いくら僕が攻撃しても彼らは決して反撃しては来ず、ただただ逃げて回るだけだった。そのあまりに弱く、はかない姿にだんだんかわいそうな気持ちになり、攻撃することをやめ、共存していくことに決めた。
一度受け入れてしまえば何てことはない。その姿にもすぐに見慣れ、僕の座るすぐ横の壁にいようと、ベッドの脇にいようと、一つも気にならなくなった。
もちろん森に囲まれた僕の工房にもゲジゲジは多くいる。
冬の間ほとんど見かけなかった彼らに先日突然出くわした。それも一度にかなりの数に。
「お、こんなとこにいたのか。」
それは床板を剥がし、逆さになって床下に顔を突っ込んだときだった。

去年から一番大きな機械を置いている場所の床が落ちてきていることには気付いていた。日に日に下がってゆき、見た目ではっきりと大きく落ち窪んでいるのがわかるまでになった。そのうち抜けるのではないかとさすがにこわくなり、とりあえず機械は別の場所に移動して、早くへこんだ床を剥がして直さなければと思いつつも日々の忙しさに追われ、見てみぬふりをする日々が続いていた。
先日、さらに大きな機械を搬入することになりその前日、意を決して傷んだ床を剥がしてみた。
「あああ。。」

妻と2人で唖然とした。床下に土間をうっていないので湿気で大引が腐り、機械の重さで潰れていた。
もう日が暮れる時間だった。明日には大きな機械が入ってくる。なんとしても今日中に直さなければ。
ゲジゲジたちに会ったのはそんなときだった。床の裏にのん気に張り付いている彼らの姿になんだか穏やかな気持ちになった。
夜中の3時頃、ようやく大引、根太を新しいものに交換し、床板を張り戻した。明日機械を設置する予定の場所の床下は、見ていない。そうそう簡単に動かせる機械ではないけれど。まあ、なんとかなるか。

これから日に日に暖かくなってゆく。虫たちが動き始める季節。工房の床下もにぎやかになっていくのかなと、想像すると少し楽しくなる。
takashi