ラダーラック製作

木を組む方法については、古くから多くの技法が伝わっている。ホゾとかアリとか様々な組み立て部分の形状が考案されていて、これらはいつの時代に確立されたのか知らないけれど、ずいぶん古い技法がいまだに採用されている。機械や道具の進化によって加工の方法は変わってきているけれど基本的な考え方は全て同じで、湿度変化よる木の巾方向の伸縮を拘束せずに反りを抑制して組むということ。面白いことにこのような技法は日本独自のものではないし、中国を起源とするアジア特有の技術というわけでもなさそうで、ヨーロッパやアメリカなどでもほぼ同じような組み方が発展している。僕がフィジーで木工を教えていた時に教室に置いてあったニュージーランドの木工技術の教科書には日本のそれとほとんど同じ仕口が並んでいた。誰にも読まれないままま教室の本棚でホコリかぶっていたその教科書を興味深く読んでいたのを今でも時々思い出す。人やものの移動とともに広まった部分もあるとは思うけれど、木の性質は世界中どこへ行っても変わらないので、それぞれの場所でそれぞれの人たちが経験的に学び、発展していったのではないかとその本を眺めながら想像していた。例えば「アリ」と呼ばれる仕口がある。先端が太くなった台形型の突起を作ってスライドさせて組むことで木の伸縮を妨げずに引っ張り強度を確保する技法。これと全く同じ仕口が「dove tail(ハトの尾)」という名前で紹介されていた。日本ではその形状がアリの頭の形に似ていることから「アリ」と呼ばれている。英語圏ではその形状から「dove tail」。形から言えばアリはちょっと違うように思う。dove tailの方が的確な気がする。でも響きとしてはアリの方がかわいい。誰がつけたのか知らないけれどとても愛嬌のあるいい名前をつけたものだと思う。

もちろん今ではこういう木工的な加工法に変わる便利な金物などもたくさん開発されている。個人的にはそれで必要な強度を確保できて、早く安く綺麗に加工ができるのであれば、木工的な技法に拘らなくても良いと考えているので便利なものは積極的に使うようにしている。ただしそれらを使うためにはその道具で加工できる部材の寸法が必要で、小さすぎるものとか細すぎる部材には使えない。

今回のラダーラックは、インドのヴィンテージカンタを扱うA Little Fableさんをお招きして開催した展示イベントに合わせてデザインしたone offのプロダクト。布をかけたり、洋服やカバンをかけたりできる軽やかな存在のものにしたく、極限まで線の細いシルエットを目指した。細い支柱と横桟を組むために、支柱を貫く通しホゾとして割りくさびで締めることで荷重のかかる組み立て部の強度を確保した。脚のR形状の終わりはゼロにしたかったので、脚を支柱に埋め込む大入れとして、その奥でアリ桟で組むことにした。

木工的な加工が見える作りは、ものが作られてきたプロセスを想像できてわくわくする。一方で作り手の気概が滲み出てくどい印象になりがちでもある。なるベくあっさり軽やかに仕上がるように細部まで気を配りながら設計、製作を進めていった。

takashi

チェリー材の本棚

本棚

前回、私がブログを書いてからもう1年以上が経ってしまった。SNSやブログを通して、普段作っているものや考えていることを伝えていきたいとは思っているけれど、すっかりブログから遠のいてしまっていました。

ずいぶん前に製作した家具の紹介になります。

アメリカンチェリー材の本棚を製作しました。お客様の事務所の壁に文庫本が入る本棚を作って欲しいとのご依頼でした。

条件としては

・事務所を移動したことを考え、自分で運べるようにしたい。出来れば片手で持てるサイズが良い
・文庫本、単行本が入る高さと奥行きが欲しい
・大切にしている作家さんの絵を置けるスペースが欲しい

本棚
本棚

設置する場所の高さと幅、入れたい本や飾りたい絵の作品の寸法は決まっていたので、条件を満たしつつ本棚が綺麗に見えるディテールを検討していきました。上下、左右の対称性や凸凹の収まりと目透かし。

形を組み替えることで色々な場所に対応できる、積木のような本棚が完成しました。

チェリー材本棚

アメリカンチェリー材で製作したこの本棚は、使い込むほどに渋い色味に経年変化していきます。

この先、どんな場所へ移動しても、どんな使い方をしても、その空間が楽しくなる存在になってくれれば嬉しいです。

kumiko

Obscura Coffee Roasters HOME

obscura coffee

三軒茶屋Obscura Coffee Roasterが駅にほど近い場所に新たな店舗”HOME”をopenさせることになり、その家具製作を担当させていただいた。

全体の店舗デザインはこれまでにも何度も一緒に仕事をしているstudio gd。

計画段階からObscura側から全体の雰囲気のイメージとして「土っぽい素材感」というキーワードが上がっていた。それは彼らがいつもコーヒー豆を仕入れているアフリカの農場や周辺の建物の素材に通じるイメージだった。

以前から探っていたあえて表面を平滑に仕上げず、荒木の凹凸を生かした無垢材の使い方が今回のイメージに合うのではないかと考えた。

表面を平滑に仕上げた木の深い艶と違い、ざらっとした荒々しい木肌は光を吸収して柔らかな奥行きのある質感が表れる。今回は厚みのあるラワンの無垢材をこのような仕上げ方で使いたいと考えた。サンプルを作り提案したところとても気に入って頂き、広い店舗全体にラワン無垢材をふんだんに使ったデザイン案がまとまった。

大きな木製建具の入り口を入ると両サイドにコーヒー豆などを並べる大きな壁面収納。正面にカウンターとその奥にオープンな厨房スペースが広がる。カウンターでコーヒーを注文して店内で過ごしたい人は隣の空間に移動する。そこは淡いピンクがかった漆喰壁に包まれたしっとりと落ち着いた空間が広がっている。壁に沿って分厚い無垢板のベンチがずらっと並び、Obscuraが長年集めてきたアフリカの民具が散りばめられ、土っぽく荒々しい素材感と落ち着いた上品さが調和した心地良い空間になっている。エチオピアのコーヒーテーブル、インドのスツール、今回製作したベンチ、それらを各々が好きな場所に移動させて好きな場所で自由に過ごす。季節や時間帯、天候、絶えず移り変わる明るさ、目の前の通りの風景、その時々に流れる時間を楽しめる新しい感覚の素敵な客席のあり方だと思う。

obscura coffee
obscura coffee

Obscuraはいつも表と裏を区別しない。バックヤードやスタッフルームだからといって家具の仕様を落とすことはせず、お客さんに使ってもらうものと同じものをスタッフにも提供して裏方であってもできる限り気持ちよく過ごせるように考えられている。

そういうスタンスがObscuraのコーヒーから滲み出る丁寧さに繋がっているのだと思う。

takashi

Cafe Roof Okurayama ダイニングテーブル

オーク ダイニングテーブル

ナラ無垢材 w2130 x d930 x h700

家具を作るとき、これからお客様の日常の記憶を刻みながら長い年月をかけて変化してゆく様子を想像したり、それを一つの魅力として説明したりすることがある。

だけど、当然それはこれから作るものにだけ当てはまるわけではない。そこで役目を終える家具がある場合、そこにも必ずたくさんの記憶が刻まれているということを忘れてはいけないと改めて思う。

大倉山のカフェroofのダイニングテーブルもそうだった。34年間使ってきたとのことで、ご家族の様々な日常の記憶、カフェをはじめてからは、たくさんのお客様がそこで過ごした時間の記憶を刻んできたのだと思う。 

最初は新しく作るのではなく、天板のみの作り替えなどの可能性も探ってみたけれど、最終的にはこれから長く使うことを考えて、今回は新規で製作させていただくことになった。

大きなイメージチェンジは必要ないと思った。もともとのテーブルの丸みを帯びた柔らかなイメージに少し近づけるために丸脚のデザインとして、印象を少し合わせることで今までの記憶を継承しながら新たなスタートとできればと考えた。シンプルでバランスの取れた良いテーブルを目指して、部材の寸法、脚の太さなど、細かく検討してゆく。シンプルな分、木目の選び方も全体の印象に大きく影響する。roofの内装、店主ご夫妻の雰囲気を想像しながら、目の詰んだ上品な柾目のナラ材を選定した。オーダー家具を製作する場合、その家具が置かれる空間に合うかどうかと同じくらいそれを使う人に似合うかどうかも考える。それがオーダーでものを作る面白さでもあるように思う。

ナラ ダイニングテーブル ナラ材 ダイニングテーブル

出来上がったテーブルはお店の雰囲気にも自然に馴染んでいて、店主ご夫妻にも似合う良いテーブルに仕上がったと思う。

takashi

勉強机

ナラ材 勉強机

8年ほど前、ご自宅の新築に際してダイニングテーブル製作のご依頼をいただいて依頼、何度となく家具を製作させていただいている茅ヶ崎市のお客様から小学校2年生になった息子さんのための勉強机のご依頼をいただいた。

この8年の間にご自宅にも何度も伺い、これまで作らせていただいた家具をとても大切に使っていただいている様子を見ている。特に日々触れるものとして、その素材の風合いを楽しんでくださっているのがよく伝わってくる。

木目に関して、独自の好みがあることもこれまでのお付き合いの中でよく知っている。ナラ材はとても好きだけど、柾目に出る虎斑は好きじゃないとか。

好きだからこそ、好き嫌いがあるのは当然のことで、その中で本当に好きなものに日々触れられることはとても心地良いことだと思う。

「無垢だからしょうがない」ことは多々あるけれど、ただ「しょうがない」だけではなく、もう一歩先まで考え、できるだけその人にとって心地良いものに仕立てることが僕たちの役目だとも考えている。

打ち合わせの際、実際に作っている場で息子さん自身に材料の選定をさせてあげたいと、ご家族揃って工房にお越しいただいた。

ご両親も好きなナラ材を選んで製作を進めることになった。

形は至ってシンプル。必要な機能を満たしながら、素材の魅力を引き出すように手を加えてゆく。時間と共に風合いが増して、自分のものになっていくように。

息子さんにとって心地の良い居場所になってくれると良いと思う。

takashi

ナラ材のダイニングセット

ナラ材 ダイニングテーブル

ある工房オープン日にご夫婦でお越しいただいた時が初対面だった。実はご主人のご実家にはこれまで何度もお邪魔していたけれど、そこでお会いする機会は一度もなかった。

以前、ご自宅マンションをリフォームされた際に、すでに独立した息子さんの部屋をつぶしてしまい、時々帰ってきても寝る場所がなくなってしまったため、ベッドとしても使えるソファが欲しいとのご依頼をいただいたことがある。

そのお客様からはその後も度々製作のご依頼をいただいている。そしてこの度、息子さんご家族がマンションを購入したとのことでダイニングセットを製作させていただくことになった。一度ご依頼をいただいた後、何度かリピートしてくださるお客様は多いけれど、親子2代に渡って製作させていただくのは今回が初めてのことだった。

工房での打ち合わせで、ダイニングテーブルのデザインが決まり、椅子はご主人が01chair、奥様が02chairとそれぞれ気に入ったものを選んでいただいた。さらにペーパーコード張りのスツール2脚も合わせて製作することになった。

 ダイニングチェア  halfmoon01ダイニングチェア

ご実家で僕たちの家具に触れていただいたことが、ご自宅の家具として迎えていただくきっかけになったことがとても嬉しかった。

ご家族の歴史を刻みながら育っていってくれると良いと思う。

takashi

楢材のキャビネットとメープル材のキャビネット

東横線、大倉山駅の近くにあるCAFE 『ROOF OKURAYAMA』のキャビネット収納を製作させていただきました。

工房オープン日にお越しいただき、その後わたしたち2人で置かれる場所を見にCAFEに伺いました。

線路脇の丘を登ると、中庭に大きな木のあるとても気持ちのよいCAFEで、北欧の建築家”アアルト”の設計する住宅を彷彿させるような雰囲気でした。

お客様のご希望は、長年使ってきたキャビネットと同じ機能が欲しい、扉の一部を白くしたい、将来的には2つに分けて使うことを想定したいとのことでした。どの部分を白とするか、全体の機能を考えながらラフスケッチで何パターンか検討していきました。最終的には楢と白は"面"で分けるのではなく、"立体"として分けていくことを提案しました。楢材の板と、楢材の箱、白い箱がそれぞれ重なっていく構成です。その立体構成で楢と白の配置をデザインに落とし込んでいきました。また、立体で素材がわかれていることで、どの角度からみても同じ印象になります。

経年に伴い、長く使い込まれた他の家具と馴染み、このCAFEの風景の一部となっていくことを想像するととても楽しみです。

そして納品後の工房オープン日、平塚にお住まいのROOF店主の弟さんご夫婦が工房にお越しくださいました。お店でキャビネットをご覧いただいたとのことで、似たデザインのキャビネットの製作のご依頼をいただきました。ご希望はすべてメープル材、引き出しは4杯ほしいとのことでした。

このキャビネットは本体と扉には、無垢材を薄く削ったもの(t1.5~2mm)を表面の材料として製作していきました。メープル材のもつ固有の魅力をキャビネットの形の中で表現できるよう、木材の選び方と木目の配置にはとても時間をかけました。

納品したお客様のご自宅は、高い丘の上にあり、ダイニングの窓にはまるで小さな模型をみているような風景が広がっていました。新幹線の線路、小さな家々、大きな空。その窓のとなりにメープルのキャビネットは設置されました。

リビングにはご夫婦の大切にされているたくさんの小物や作品が壁や棚の上に置かれ、それにまつわるお話を楽しく聞かせて頂きました。

大切につくられたり、年月が経って過ごしたものにはそれぞれ自然と物語が生まれると思います。

わたしたちのような『つくっている人』を知ってくれることで、その物語が少し楽しいものになればいいなと思います。

建物の窓は外の風景を切り取るものですが、家具は内部の風景を作るとものだと思いながら、日々家具をつくっています。

kumiko

胡桃の飾り台

クルミテーブル

胡桃の飾り台 w1900 x d350 x h700 (展示品あります)

数年前からずっと胡桃材を使ってみたいと思っていた。 

普段よく使っているナラやチェリー、ウォールナットと比べると胡桃は柔らかく、強度の面でも硬い材料と同じ感覚では使えない。

かといって強度を保つために単純に部材寸法を太くすれば、その優しい木目も相まって、野暮ったい印象になってしまう。

ある意味では使い方がとても難しい材料でもあるけれど、その柔らかさがとても魅力的に思えていた。特に天板に使えば物を置いたときの当たりが心地良いに違いないと思った。

馴染みの材料屋さんには常々相談していたので、北海道産の胡桃材が入ったときはすぐに声をかけてくれた。ある程度まとまった量の胡桃材を買った。買ったは良いけれど、これで何を作ろうか、、特にすぐに使うあてもなかったのでしばらく手をつけられずにいた。

そんな材料の山の中にひときわ目を引く板があった。これを活かすようなものを作ろうと思った。

巾は350mmぐらいの耳付きの板で、荒々しい節を持ちながらも木目は繊細で上品。色味もとても深い褐色だった。どこも切り落としてしまうのがもったいないほどの板。隅々まで全て使いたいと思った。普段であれば平らな面を出すために機械である程度厚みを削って使うけれど、今回は厚みもなるべく薄くしたくなかったので、機械は使わず、手カンナで平面を出して仕上げることにした。

荒木からひたすらカンナで削りまくる、気の遠くなるような作業。でも削るほどに現れてくる美しい木目と深い色に嬉しくなる。

天板が耳付きの有機的な形状である分、全体の印象としてはあまり重たいものにはしたくないと思っていた。かといって脚には金属を使うのではなく、全て木で作ろうということは決めていた。妻と二人で様々な形の可能性を探った。途中まで進めながら、イメージ通りの結果にならずやり直したりもした。最終的には脚は柾目の板を使って、できるだけ薄く見えるような加工をし、幕板がRを描き板脚に吸い込まれていくようなデザインとした。

クルミテーブル クルミテーブル クルミテーブル

オーダーで家具を製作する場合、お客様の機能的な要望が中心にあって、それを満たすことを前提とした上で、美しさなどを追求していくことが多いけれど、今回は使いたい素材が先にあって、それを最大限に生かすためにベストだと思う形を探っていくという別のアプローチでの製作となった。

僕たちの思う一つの答えは出せたような気がする。

takashi

小さなナラの仏壇

小さな仏壇 家具調仏壇 手作り仏壇 無垢仏壇

W440 x H490 x D350 ナラ無垢材 無塗装仕上げ

小さな仏壇製作のご依頼をいただいた。

仏間などに収めるのではなく、普段ご家族が過ごしているリビングに置きたいとのご要望だった。

祈りの場として日々向き合うもの。上質で静かな佇まいのものにしたかった。

まずは家具としての存在それ自体を心から気に入っていただけることが大事だと思った。そのために僕たちにご依頼をいただいたのだと思う。

全体のバランス、それぞれの部材の寸法設定がとても重要になってくる。装飾的な形状はいらない。シャープでありながら柔らかい印象にするために天板と地板の前面は緩やかな曲線を描き、板厚を薄く、軽やかに見せるように木端を浅い角度でテーパーに削る。それぞれの板の厚みは全体のバランスから一番きれいに見える厚みを検討して決める。構造的にしっかりと板厚を確保したいところは扉をかぶせて厚みが見えないように工夫したり、細部までしっかり意識しながら設計してゆく。

ナラ無垢材無塗装仕上げ。木そのものの持つ風合いを引き出すためにオイル等は使用せず、無塗装の素地を磨き上げて仕上げる。さらに日々乾拭きを繰り返すことで自然と磨き込まれて少しずつ艶が増し、味わい深く変化してゆく。

上質な柾目材を選りすぐった上で、さらにどの材料をどう並べて、どの部材に使うかを慎重に検討して木取り、製作した。小さい分、木目の選び方も全体の印象に大きく影響すると思う。

扉には、真鍮角棒で作ったオリジナルの取手を一本だけ取り付ける。ほんの少し色気が出ればと思う。

小さな仏壇 家具調仏壇 手作り仏壇 無垢仏壇

小さな仏壇 家具調仏壇 手作り仏壇 無垢仏壇

小さな仏壇 家具調仏壇 手作り仏壇 無垢仏壇
小さな仏壇 家具調仏壇 手作り仏壇 無垢仏壇

                              

向き合ったときの程よい量感、触れた手にしっとりと優しい無塗装の肌触りが心地良い「小さなナラの仏壇」が出来上がった。

takashi

ナラ材の収納家具

楢材の収納家具を製作しました。

お客様が工房にお越しいただいたのは2年半ほど前だったと思います。自宅を新しく建てている時期で、キッチンとダイニングの間の壁にL型の家具を希望されていました。どのような収納があるとよいかをとても熟慮されていて、引き出しやティッシュ、ゴミ箱の収納など具体的なご要望をいくつかお聞きし、家具のご提案をさせていただきました。

〈1案目〉

〈2案目〉

2案目をベースに何度かやりとりをしながら、更に機能性を充実させていきました。

上部には浅めの引き出しを横並びに配置し、下段は左側に大きめの引き出し、他は開き扉としています。また、上と下に段差をつけることで表情豊かな家具になるよう全体の形を整えていきました。

出来上がった構成をもとに、どのような木目にするか、つまみはどうするかなど設置する場所の空間に合うよう詳細を決め、製作へと進んでいきました。樹種は楢材とし、家具全体が木目によってうるさくならないよう、柾目と板目を使い分けています。

家具はオブジェではなく機能を伴うものですが、機能だけを追求するとつまらないものになります。家具が入ることでその空間が心地よくなったり、日常が楽しくなるような提案をしたいといつも思っています。

この家具があることでお客様の日常が少しでも快適に豊かになってくれたら嬉しいです。

kumiko

スツール

スツール キッチンスツール

郵便配達員のお兄さんが僕たちの家具を見に工房に来てくれたのは今から5年近く前のことだった。

小さな工房の家具の展示をとても気に入っていただき、その時はまだ無理だけれどいつか必ず何か注文したいと言ってくださったその目がどこまでも澄んでいたのをとても印象深く覚えている。

その翌年には、お母様にも見せてあげたいと、ご一緒に来られて、ものを作る過程の話、素材の話など様々な話しをした。

それから数年たった今年の春、お住まいのアパートの部屋の窓辺にhalf moonのスツールを置きたいと、製作のご依頼をいただいた。

その場所で本を読んで過ごすイメージが出来上がり、決心して来ていただいたのだという。手帳に描かれたメモを見ながら、そのイメージを話してくれた。その手帳には、窓の高さや配置だけでなく、以前僕と話した内容などもメモされているようだった。

ほんの小さな家具だけれど、何年もの間、ご自身の生活の中での居場所をイメージしながら、じっくりご検討いただいた上でご依頼いただいたスツール。とても楽しみにしていただいていることが伝わってきた。ものの価値について思う。それは金額とか大きさとは全く関係のない、極めて個人的な価値で良いのだと思う。そしてその人にとってのその価値を最大限に追求するのが僕たちの役目だと思う。自転車で団地を廻って郵便物を配りながらも考えていてくれたのだろうなと思う。

それから数ヶ月、スツールが完成してお引き取りにお越しいただいたのは夏の終わりの日曜日だった。

最近、長年勤めた郵便局を離れ、傘の販売の仕事に変わったのだそうだ。大学生の頃、雨の日に広いキャンパスを傘をさして歩くのがとても好きだったことを話してくれた。緩やかに切り取られた雨の風景。その傘の下、たった1人で聞く雨の音は柔らかく響いていたんだろうと想像する。自分だけの、ささやかだけれど特別な世界を切り取る傘。そんな魅力を伝えるような仕事がしたいと思うようになったのだという。その眼差しは初めてお会いした時と全く変わらず、純粋で繊細で、まるで妖精のようだと思った。

エアキャップで梱包したスツールをとても大切そうに抱えて歩いてゆく後ろ姿を見送りながら、大好きな傘の仕事がうまくいって欲しいと心から思った。

takashi

山桜ダイニングテーブルとダイニングチェア

山桜ダイニングテーブル

最初に工房にお越しいただいた時は、ご自宅の新築に際してTVボード製作のご相談だった。

テレビとオーディオ機器を配置し、両脇にはギターとベースを一本ずつ壁掛けにする。ご主人の趣味の中心としてのTVボードをまず特注したいとのご要望だった。

ダイニングテーブルはハウスメーカーに依頼し、椅子は大手家具メーカーの既製品に決めているとのことだった。

ご相談をいただいたTVボードのプランをご提案してからしばらく経った工房OPEN日、再度ご夫婦でお越しいただいた。奥様曰く、以前ここで見た山桜のダイニングテーブルが忘れられないのだと。TVボードではなく、ダイニングテーブルを作ってもらいたいという気持ちになってきたとのことだった。

最初にお越しいただいた時、ちょうど僕たちが製作した納品前の山桜のダイニングテーブルを置いていた。それがまさに奥様にとって理想のテーブルだったそうだ。素材の色味、質感がとても好みで、建設中のご自宅の雰囲気にもぴったりとくるものだったと言う。ご家族みんなが料理好きで、大人数で食事を囲むことも良くあるようで、ダイニングテーブルは大きなものが理想とのことだった。

ダイニングテーブルは無垢の木の風合いが前面に出る家具。ご自宅の内装は壁や床等、素材にこだわっているとのことだったので、僕たちもTVボードではなく、ダイニングテーブルを作らせていただくことに大賛成だった。

椅子を6脚並べられる大きなテーブル。お客様が最初から決めていた椅子がうまく収まるような寸法に設定して 製作を進めることになった。しかし、前回と同じルートで山桜材を仕入れようと思ったところ、もう無いと言う。馴染みの材料屋さんが北海道に仕入れに行くので探してきてくれるとのことだったのでそれに期待して待つことにした。しかし、返答は北海道にも無く、手に入らなかったとのことだった。お客様は無いのであれば系統の近いアメリカンチェリー材でも良いと言ってくれていた。チェリー材もとても魅力的な材料で、僕も好きな材料の一つではある。でも。この場合はやはりチェリーではなく山桜が絶対に良いと思った。なんとしても探し出したかった。知り合いに聞いてまわって、なんとか山桜を持っていそうな材料屋さんを紹介してもらうことができた。問い合わせると千葉県の倉庫に東北産の山桜を持っていると言う。すぐに見に行って満足のいく材料を仕入れることができ、ようやく製作を進めることができた。

ダイニングテーブルの製作を進めていくうちに、お客様は6脚購入予定の椅子のうち3脚はhalf moonの椅子にしたいとのご希望をいただいた。まずはテーブルを先行して製作し、half moon 02chairの革張りを3脚、お引越し後に製作することになった。

ダイニングテーブルが完成した時、ご夫婦で工房まで見に来ていただいた。山桜の柔らかく優しい色味がイメージ通りだと、とても気に入っていただいた。

さらに、「ここまで来たら、6脚全部half moonの椅子で揃えたくなった」と

奥様からとても嬉しいお言葉をいただいた。

そもそも最初に決めていた椅子が収まるようにテーブルを設計していたはずだったけど。それはまあ良し、と言うことになって01chairをさらに3脚製作させていただくことになった。

halfmoon 01 chair  山桜ダイニングテーブル

最終的にはダイニングテーブルと椅子を6脚。すべて製作させていただいた。きっとこのダイニングは、ご家族にとってこの新しい家での生活の中心となる場所だと思う。ご家族の日常とともに、長い時間をかけてじっくと変化しながら深みを増していってくれると思う。

takashi