高知へ

製作のご依頼ををいただいている教会の洗礼盤のボウル部分の打ち合わせのため、漆作家の大塚友野さんに会いに高知県に行ってきた。

最初に洗礼盤製作のご相談をいただいた時、お客様は台座は木製、聖水を入れるボウル部分は金属製というイメージをお持ちだった。でもお話しを進める中で、工業的なものよりも工芸的なものを希望されていること、今回のご依頼に至った想い、そのプロセスも含めた物語性を大切にしたいということを伺い、ふと思いついて工房に飾っていた大塚友野さんの漆のボウルをご覧いただいたところ、その質感、漆工という日本の伝統的な技法であることに強く興味を持っていただき、この方向で進めていくことになった。

その後お客様と何度か打ち合わせをする中で友野さんの作品の写真をご覧いただき、仕上がりのイメージが固まってきた。友野さんとはオンラインの打ち合わせで進めることもできるけれど、最初のイメージをできるだけ正確に共有してスタートしたかったのと、僕たちも製作を進める上で友野さんの制作風景を想像しながら進めたかったので、直接会いに行くことに決めた。

高知市内からはだいぶ離れた吉野川沿いの国道から分かれた北側の山の斜面の細い坂道をどんどん登る。こんな山の斜面に集落があることがとても不思議に思えた。国道から離れ20分近く登ると尾根近くの小さな集落に着いた。ここまで登ってくると山村なのにとても明るい。南側は吉野川が流れる大きな谷で、向かいにはここと同じぐらいの高さの山々が連なっている。その谷いっぱいに太陽の光をたっぷりと含んだ空気がふわっと溜まっているような不思議な風景だった。そんな場所の古い平屋で友野さんは2頭の犬と一緒に暮らしている。

都会で生まれ育った彼女がここに来てもう7年。ここでの暮らしは心地良く、体の調子もとても良いのだと言う。この土地の風景も時間も暮らしている人たちの感覚も、全てが友野さんの価値観にしっくりくるのだと思う。

お風呂もトイレも家の外だし、やっぱり冬は寒いし、見方によってはとても不便な暮らしとも言えるけれど、ここでそんなことを話題にすること自体ナンセンスだと思えるぐらい彼女にとってそれらは普通のこととして、この土地に根ざして暮らしているように見えた。自分の価値観と真摯に向き合いながら生きている姿はとても魅力的で羨ましくもあった。

南側の山々を窓越しに眺めながら、尽きない話を一度中断して、洗礼盤の打ち合わせ。

お客様の想いを伝えるとしっかりと受け止めて咀嚼してくれている様子がとても印象的だった。

漆のボウルは、最初に型を作ってそこに麻布を沿わせ漆で固めながら形を作っていく。乾かしてまた麻布を敷いて漆で固めて、必要な厚みまで繰り返す。とても手間と時間のかかる作業だ。外側の最後の仕上げは黒に近いグレー。内側はグレイッシュなベースに錫を撒いた仕上げにする。これから数ヶ月かけて制作を進めてもらう。

実際にこの場所に来て、ここの空気を感じることで、礼拝堂から僕たちの工房を通ってこの場所までの風景が繋がったものに感じられた。

takashi