
少し前のこと、
雨が上がるのを待ちながら切りの良いところまでと思って作業をしていたら、いつの間にかすっかり日が暮れていた。
めずらしく妻と一緒に木の子の散歩に出かけることにした。
寺家スタジオの方から川沿いの道に降りてゆく。川に沿って雨上がりのひんやりと湿った風が流れていた。時折木の子は立ち止まって、少し背伸びするように空中に鼻を持ち上げ、風に乗ってくる匂いに意識を向けている。しばらく川沿いを歩いて、用水路に沿って田んぼの方に向かった。
ふと水路脇の茂みに目を向けると1匹の蛍が涼しげな光を灯しながらゆらゆらと舞っていた。もうそんな季節か。僕たちはもう少し奥のふるさと村の田んぼの方まで行ってみることにした。思った通り、真っ暗な森に蛍の強い光が舞っていた。僕たちが夢中になっていると、木の子はつまらなくなったのか、自分でハーネスを抜いて田んぼの方に走って行ってしまった。真っ暗でよく見えないけれど、「ちゃぽん」と、水に入る音が聞こえた。あああ、水路に入って遊んでいるらしい。しばらくすると僕たちの前を勢いよく横切る影。そのまま今度は森に入って行った。自由人。
先日、open日に工房に来てくださった方が、こんな環境で日々家具作りをしている僕たちを見て「幸せを手に入れましたね!」なんて言っていた。その時はずいぶん大袈裟なことを言う人だななんて思っていたけど、確かにそうかもしれないとも思えてくる。当たり前のこととして日々季節が移ろい、それを日常の中でほんの身近に感じられる。それはとても幸福なことなのかもしれない。
takashi