3年半ほど前に築35年の古屋を購入した。
それまでは、賃貸の小さな平屋に住んでいた。普段帰ってくるのは夜だし、休みもほとんどなかったから家にいることもなく、引っ越した段ボールもそのままの状態で、倉庫に住んでいるような生活をしていた。
たまにお客様に「ご自宅も素敵なんでしょうね」なんて言われることもあったけれど真逆な暮らしをしていた。家具を作ることに精一杯で自分たちの生活を顧みる余裕なんて、最初の10年は全くなかった。
ただ、少しずつ無垢の家具の心地よさや楽しさを自分たちが実際に使い、確信をもってお客様にご提案したい。家具の機能やデザインが、私たちの生活から生まれるものでありたいという思いが出てきた。自分たちの作った空間や家具がある家を持ってみたいという好奇心が生まれた。
家具を製作する仕事は、地方(関東圏以外)でも成立する仕事だから今の場所にこだわる必要もない。だけど、私たちの家具作りは「お客様との対話」をとても大切にしている。直接お会いしたりご自宅へお邪魔し、価値観を共有することが家具を製作する上で必要なことだと思っている。そういう点では今の場所を離れる理由もない。
今の工房から車で行き来できる場所を探した。
建築基準法が改正された後、1975年以降に建てられて、できるだけ古く安価な物件を探した。ただ、安いというのはあたりまえだけど、安い理由がある。場所や日照条件、土地や建物の広さなど。
何を優先するか。まず、場所の雰囲気が自分たちに合うかどうかを重視した。次は敷地との関係を考慮した家であること。考えて作られたものにはどんなものでも魅力がある。家具はもちろん、家も同じことがいえると思っている。
具体的に探し始め、4,5件ほど見てもしっくりくる家はなかった。
そもそもわたしたちの希望に合う家なんてあるのか。戸建にこだわらず、集合住宅にして家具を充実させた空間でもよいのではないか。
楽しく暮らせる方法をあれこれ考えているとき、工房から車で15分ほどの場所に条件がちょうどよさそうな家をnetで見つけた。翌日に内覧。その場で買うことを決めた。
そのとき既に築35年、土地は玉石擁壁があり新築するには不利な条件だが、改修して住むことを考えていたわたしたちにとっては、特に大きな問題はではなかった。何より、ここ以外に自分たちに合った条件の家と出会えるとも思えなかった。
契約が進んだころ、不動産の方が「こんな資料があるのですが、要りますか?不要であればこちらで処分します」と数冊のファイルを渡してくれた。確認申請時の青焼きの図面一式と検査済書、そして新築時に施工会社とどんなやりとりがあったかの議事録、家が建つ前から工事中、完成までの写真一式。とても丁寧にまとめられた資料だった。
「もちろん、受け取ります。」
わたしたちにとってはその全ての記録が宝物のようだった。
何回も何回もワクワクしながら写真を見た。
実際に住み始めてみると、ここに住んでいた方がとても丁寧に暮らしていたことが伝わってきた。
そして、1年後改修へと進んでいく。

kumiko