うちに木の子(犬)が来た頃だから、もう4年半前ぐらいになる。
打ち合わせから帰って来たら、工房の近くに住んでいる女の子が入り口に展示してある1人掛けソファにぽつんと座っていた。近所で何度も見かけてはいたけれど、お話しをしたり工房に来たのは初めてだった。
「ここにはもう一人いるよね。おんなのひとが。」
木の子を可愛がりながら、ぽつりぽつりと会話をしつつ私の帰りを待っていたらしい。
それから、その女の子はよく工房に顔を出すようになった。木の子とも仲良くなり、木の子と2人で探偵ゴッコをしていたり、みんなで散歩に行ったり。驚くほど手先が器用で、工房に来ては木の端材で色々なものを作っていた。サイコロのような形をした"さっぽろくん"の船や飛行機…本当にたくさんのものを自由な発想で作っていた。
仕事に追われる日々の中、私にとって彼女との時間は楽しみにもなっていた。
そんなあるとき、「椅子を作ってみよう」という話になった。どうしてそうなったのか忘れたけれど、彼女の器用さなら作れるのではないかと思ったのは覚えている。まず、どんな椅子がいいか絵を描いてもらった。それを元に、大きさを決めて図面を描いた。私が描いたものを説明し、本人に一から描いてもらう。そして、使う樹種を選び、部材の寸法出しも一緒にした。
木造り(材料を必要な寸法に加工すること)はこちらで行い、ホゾの加工はノコギリと鑿を使って本人にやってもらう。椅子はだんだんと形になっていった。チェリー材でつくり、背中が当たる板はメープル材。背をつける位置も女の子に聞いて、彼女の持っている"いい"と思う感覚をできるだけ大切にした。座面貼り、仕上げ、塗装までやり遂げ椅子は完成した。
今、その椅子は遠く離れた大好きなおばあちゃんの家にあるという。
そんな日々の中、女の子のお母さんがあるとき工房に来た。
キッチンスツール を2脚お願いしたいと。
「家にいつも"たかちゃん"と"くみちゃん"がいるみたいだから」
女の子が笑顔で言ってくれた。
あれから2年以上。
小さな女の子と会うことも見かけることもほとんどなくなった…
でも彼女はわたしにとって大切なことを思い出させてくる、今でもかけがえのない友達だ。
ひこうきに乗った 「さっぽろくん」
kumiko
先日、11月11日。
女の子のお母さんがエッセイを出版した。毎日のように工房に来てくれていた女の子とその弟と妹、3人が不登校になり、そんな子供たちとの日々を綴ったエッセイ。
「ママの背中は竜巻だ!!」あらい さゆり
物語のような、この辺りの風景も想像できる温かい内容です。わたしたちのお気に入りの本が一冊増えました。