蘭越町富岡、羊蹄山に向かって開けた広い畑。夕方の透き通った空気が心地良い。
すぐにビニールハウスから奥さんのかをりさんも出てきてくれた。涼やかに澄んだとても素敵な佇まいの人だ。
早速、今日泊めてもらう畑の小屋に案内されて、トイレの流し方、電気のスイッチの場所、寝床のロフトへの上がり方を教えてもらう。コーヒーをいただきながらしばしの休憩。
もともと馬小屋だったこの小屋は、肇さんが町にいた頃からのご友人の建築家たちが「勝手に」様々な材料を持ち込んで「好き勝手に」改修をし始め、人が泊まれるようになり、その工事は今でも続いていて、この先も永遠に続くのだそうだ。かをりさんいわく「富岡のサグラダファミリア」だと言う。
どこかから拾ってきたという大きなガラス窓が羊蹄山を望める最高の場所に取り付けられている。肇さんが話してくれたこの窓の取付の時のエピソードがなんともほのぼのとしていて良い。
この小屋の羊蹄山側の壁には大きな筋かいが入っていた。この窓を取り付けるためには筋かいを切らなければつけられない。筋かいが構造上いかに大切なものかを熟知している建築家たちはこれを切ってしまって大丈夫なものか悩み続けていたという。切ろうか、やっぱりやばいんじゃないか、やめようか、でもここに窓あったら絶対いいよね。。切るか、でも。。
それを見ていた近所の農家のおじさんがしびれを切らして近づいて来て言った。
「一級建築士が何人も集まってさっきから何やってんだ。悩んでねえで切ってみな。なんでもねえから。」
農家のおじさんの一言でようやく筋かいを切り始めた若い建築士。その間、年長の建築士たちはみんな外に避難して遠くから見守っていたという。やってみればおじさんの言う通り「なんでもなかった。」そうだ。
外には立派なピザ釜も作られている。その設計図、工事の工程表、工事記録もしっかりファイリングされて残されている。さすが建築士の仕事と思いきや、かをりさんに言わせれば
「あいつら、一級建築士のくせに、施工は全然だめなのよ。あのピザ釜見てごらん。傾いてるさ。」
と笑う。なんて気持ちの良い人なんだろう。ここに来て早々、すっかりくつろいでしまった。
夜はバーベキューをしようということで、みんなで畑に出てアスパラを収穫。食べごろのアスパラを刈り取りながらそのままかじってみる。生で食べて「美味しい、美味しい」と喜んでいる僕たちを見てかをりさんは
「ここではね、毎日毎日こればっかり食べるんだよ。」
と笑っている。
バーベキューの前に近くの温泉へ向かった。夕暮れの尾根伝いの道を走る。一枚だけ持ってきていたBUIKAのCDを聴きながら。水田に映る少し遅めの北の夕日、遠くの山々のシルエット、道路脇の白樺の木々。なんて気持ちの良い夕暮れなんだろう。ただ通り過ぎていたら綺麗な旅の風景でしかないものが、この場所で日常を送る人たちに出会えたことでより深い物語を含んだ風景に見えてくる。まださっき来たばかりだというのに僕たちは、「肇さんとかをりさんに会いに来て本当によかったね。」と話していた。
takashi