電話が鳴ったのは、作業台の上に散乱したかんな屑を片付けているときだった。
「もしもし」
「Hello, Bula, Bula re」
「え?? あれ? ハロー」
「Bula,Takshi !」

僕が2012年3月まで2年間住んだフィジーの友人、テキニからだった。
受話器の向こうから聞こえる懐かしい声。その声から彼の人懐っこい笑顔をはっきりと
思い浮かべることができた。
話しながら僕は、帰国前日、首都のマーケットで突然後ろから名前を呼ばれ、振り返ると
笑顔のテキニが駆け寄ってきて僕に抱きついてきたときのことを思い出していた。
2年間僕が暮らしたバヌアレブ島の片田舎の村、レケティから遠く離れた本島の首都で、
しかも帰国前日に、よく知った友人とばったり出会った驚きとうれしさを今でも
はっきりと覚えている。その後僕らは、マーケットの裏の路地に並んだ小さな安食堂で
最後の昼食を一緒に食べて、別れた。
電話の向こうのテキニは、最近のレケティの様子を話してくれた。
近い将来、レケティにも電気が通るらしいこと(僕がいた頃はレケティには電気が
近い将来、レケティにも電気が通るらしいこと(僕がいた頃はレケティには電気が
通っていなかった)。毎晩のようにカバ(植物から抽出するフィジーの伝統的な飲み物。
アルコールではない)を飲んで、一緒にどろんと酔っ払っていた副校長のマスタービリが
別の高校に異動して校長になったこと。テキニの姪っ子で、僕の隣人だった若い教師、
アギーが結婚したこと。
別の高校に異動して校長になったこと。テキニの姪っ子で、僕の隣人だった若い教師、
アギーが結婚したこと。
次から次へと出てくるなつかしい名前。立場や環境が少しぐらい変わったところで
彼らの生活は何も変わらないだろう事が想像できる。暑いときには大きなマンゴーの木の下に
座って涼み、のどが渇けば生徒を使って椰子の実を採らせて、ココナッツジュースを飲んで、
夜になれば仲間と何時間もカバを囲んで酔っ払う。
そんな世界から帰国してもうすぐ一年半が経つ。
僕も、去年結婚したこと。三月から自分の工房を持って家具を作っていること等々、近況を話した。
そんな世界から帰国してもうすぐ一年半が経つ。
僕も、去年結婚したこと。三月から自分の工房を持って家具を作っていること等々、近況を話した。

電話を切った後もしばらく、僕の頭の中ではさまざまなフィジーの音が鳴っていた。
友人たちの話し声、馬の嘶き、鳥の声、遠くでまわり始める発電機のエンジン音、
それが止まるときの静けさ、そして木工科のワークショップで生徒たちが作業をしている音、
誰からともなく始まる彼らの歌、笑い声。
それは僕にとって、時々思い起こすことができる「もう一つの世界」になっていた。
takashi