大切なもの

ほんの小さな修理の仕事だった。

だからといってお客様の想いが小さいということでは全く無いのだと改めて感じられるとても印象深い経験だった。

 

修理のご相談をいただいたとき、製作が混んでいたため実際に手をつけられるのは数ヶ月先という状況だった。それでも思い入れのあるものだからできれば直して使いたい、とお持ちいただいたのは座面の籐が破れてしまった2脚の古いスツールだった。

どんな想いが詰まっているのだろうか。長年に亘って暮らしの中にいつもあって、色々な記憶を含みながら宝物になっていったのだろうと思う。

 

 

「歳が歳だから怖くて外にも出られないの。」とても不安げなご様子だった。

庭先でお渡しした2脚のスツールを濡れ縁に並べ、慈しむようにしばらく眺めて

「こんなにきれいになって。 見違えるようだわ。 しばらくは使わないで眺めていようかしら。 今日はうれしくて眠れないかもしれない。」

とても静かに、ゆっくりとした口調で独り言のようにそう言った。

うれしかった。自分の仕事に満足していただいたことにではなく、その価値観がとてもうれしかった。そういう方に出会うと、ものを作る人間として安心する。ものの価値ってそういうものだと強く思う。

 

takashi