製作の記事を書かなければ書かなければと思いながらいつもなかなか書き出せない。
日々のことなのだから日記のように気軽に書けばとも思うけれど、なかなかそうもいかない。
御夫婦でチェロを弾き、長年愛用されているオーディオ音楽を楽しみながら日々の暮らしを大切にされているそのお客様から最初にお電話でお問い合わせをいただいてから、実際に製作に入るまで何度打ち合わせを重ねただろう。
お問い合わせの内容は、愛用されているオーディオ機器のラックと、レコードを収納するためのキャビネットだった。デザインはいたってシンプルなもので、無垢材のものにこだわりたいとのことだった。こちらで作成したラフのプランをもとに、材料の選定、各収納スペースの細かな寸法、板厚を打ち合わせを重ねながら調整してゆく。さらにはお客様からのご提案で、お客様自ら用意されたオーディオ用のスパイクとスパイク受けで家具全体を支持し、振動の伝達を制御したいとのことだった。打ち合わせを重ねるたびに、お客様の音響に関する深い知識と探究心に好奇心をくすぐられていた。

雑談の中でお客様がイタリアの工房で作ってもらったというチェロのお話から、さまざまな楽器製作者のこと、楽器用の木材のこと等々興味深いお話をたくさん聞かせていただき、こちらのほうが勉強させていただいていたような気がする。
一通りセットし終わると、ソファに座り、早速音楽を聴かせていただいた。正面左右には初めて見る平面バッフル型スピーカー。真空管アンプとの組み合わせで低音から高音、微細な音まではっきり再現されているのがよくわかる。特にレコードの音源は 柔らかく、深い響きで、いつまでも浸っていたいほど心地良い体験だった。

「これから10年かけて育てていきますよ。」
帰り際にとても嬉しい言葉をいただいた。