壁面収納

窓の外に広がる逗子の海では多くのウィンドサーファーたちが風を受けていた。近所の高校のヨット部員たちらしき姿も見える。砂浜には週末の日差しを楽しむ人たちがたくさん出ていた。
青葉区に工房を構える前、しばらくこの近くに住んでいたこともあり、僕にとっても馴染み深い秋の風景だった。家具を搬入、取り付けをしている間もなんだかとても心地よく、落ち着いた気持ちで作業を進められた。

その海岸沿いのマンションに住まわれるご夫婦から壁面収納製作のご相談をいただいたとき、以前住んでいた場所からあまりに近いことに驚いたと同時に、わくわくするうれしさがあった。
お客様のご要望は、リビングの壁面に巾約2.4m、高さは天井まで一杯、約2mの収納を作りたいとのことだった。
工房での最初の打ち合わせの後、ラフプランを作成し、お客様のマンションのリビングを実際に見させていただきながら、使用する材料、収納するものの寸法、コンセントからの配線経路、使い勝手等打ち合わせを重ね詳細を詰めていった。
オーク壁面収納
オーク壁面収納
海の見えるリビングにオーク材の壁面収納。無垢板の重厚感と深い温かみがなんとも心地よい。これから日常の風景の一部になっていく家具。季節とともに移り変わっていく窓の外の風景とも調和してくれたらいいと思う。
takashi

打ち合わせテーブル

去年の十月からはじめた月に一度の工房オープン日。
初めてのお客様が来てくれたときのことを今でも時々思い出す。

工房の展示スペースを整え、家具を配置して、あまり埃の立たない作業をしていた。
日曜日の午前、機械を回さずに音楽を聴きながら静かに作業するのも心地良いものだ。
しばらくして工房の前に車が停まる音を聞いて妻と顔を見合わせた。
「誰か来た。」
「どうしよう。」
オープンと謳っておいて「どうしよう」というのもおかしな話だけれど、こんな寺家町の一番奥の工房を目指してお客様が来てくれるということがうれしいと同時に、どこか信じがたく、こちらのほうがどぎまぎしてしまったことを覚えている。
少しの時間だったけれど、この日のために益子で買ってきた器でお茶を飲みながら、家具の話やアーミッシュの話などして過ごした。
それから数ヵ月後、そのお客様から仕事場の打ち合わせテーブル製作のご相談をいただいた。木の天板にスチールの脚という大まかなイメージから天板の樹種、サイズ、形状、脚の構造等、打ち合わせを重ねて詳細を詰めていった。
打ち合わせテーブル
打ち合わせテーブル
打ち合わせテーブル
お客様との対話があってこそ生まれた形。シャープさと柔らかさが共存するテーブルに仕上がった。
takashi

キッチン・ダイニングの間仕切り家具

居心地のよさとかゆったりとした時間の流れというのは、空間の広さと比例している訳ではないと思う。以前、中村好文さんの展覧会へ行ったときにもそんなことを思った。
今年に入り、リビングとキッチンを間仕切る家具のご注文を頂いた。
このお客様のご自宅も、そんなことを感じさせる空間だった。家具の配置がバランスよく、色合いも落ち着いていて、とても心地よい時間が流れていた。
キッチン側は家電や食器を収納するための必要寸法を守りつつ、リビング側は飾るスペースを設けた間仕切り家具。お客様のご要望を考慮しつつ、縦のラインの間に、素材の違う箱(本革やガラス、木)がぽこぽこあり、箱の一部が飾るスペースとなっているデザインの家具をご提案させて頂いた。樹種はお客様のご希望で落ち着いた雰囲気のウォールナット材を使用した。

両面使いの家具のため、一つ一つの加工の際、寸法ミスなどがないよういつも以上に、何度も図面で確認しながらの製作となった。家具を製作する場合、一番最初に行うのが「木取り」という工程。無垢の場合でも突板合板の場合も、まずどの部分を家具のどこに使うかを考え、ある程度の寸法に材料を切っていく。木には木目があるので、この工程は家具の表情にかなり影響する。
わたしたちがお客様に直接合い、色々とお話をするようにしているが、「木取り」作業をする際、お客様との雑談がとても役に立つ。このお客様だったら、この木目かなぁ。と、考えながら木取りをしてく。どの家具も製作中は、何度もご依頼頂いているお客様の顔を思い浮かべる。
今回は、あまりワイルドにならないよう、節のある部分は見えない場所に使用するなど、できるだけご依頼いただいたお客様の雰囲気に合うように木目の配置をした。
ご主人のご希望でもあった一番の特等席(リビング側の右上)には”CD”が配置され、奥様がセンス良くものを飾って、(もちろん家電や食器も納まり)始めて家具として機能するのだろう。リサラーソンの陶器のライオンくんはいま頃どこにいるのかなぁ、なんて想像したりする。
納品が終わり、ご主人が「今年の楽しみが終わっちゃいました」と。。。
わたしにとっても、今年最大の製作が終わっちゃいました(まだ、3ヶ月ありますが。。。)
kumiko

チェリー 丸テーブル

こんなにも自然で、効果的に空間になじんでくれたことにうれしくなった。
5歳の元気な娘さんはテーブルの周りを回ったり、下をくぐったり。設置した瞬間にこのご家族にこのテーブルで本当によかったと安心した。

チェリー丸テーブル
Yチェアがきれいに格納できる丸テーブル。そんなご相談が始まりだった。デザイン的にはシンプルで、すっきりとした四本脚のものにした。天板の木口は板厚が薄く、シャープに見えるよう斜めに落とす。その角度をYチェアのアーム角度と合わせ、椅子ができるだけ奥まで収められるようにした。
材料は、手触りがとても好きだというお客様のご意見からチェリー材を選んだ。樹種を選ぶ際、他の家具と色味を合わせることを優先して決定することが多い。確かに同じデザインのものでも材の色味によってものの印象は大きく左右される。同じように手触りというのもそれぞれの樹種ごとに個性があり、特に手作りの無垢の家具において、それは大きな魅力の一つだと思う。手触りを最優先に樹種を決定していただいたことがうれしく、何度も触っては木肌を確かめながらの製作となった。
丸テーブル
納品の後、ご家族と一緒に真新しいテーブルを囲んで少し早めの夕食をご馳走になった。しゃべりっぱなしの元気な娘さんがとてもかわいい、暖かい雰囲気の食卓に僕たちもすっかりリラックスしていた。

これから多くの時間をここで過ごすご家族の日常の暖かな風景の一部であり続けてくれるといいと思う。
takashi
 

コンソール、キャビネット製作

特注家具の依頼を受けたとき、そのお客様の雰囲気や空間に合う樹種や形をとことん考え提案する。

わたしたちは2人で家具を製作しているので、アイディアに関してもお互い意見を出し合い、その中で使って頂くお客様に一番合っていると思うものご提案させていただく。
今年の2月。新居に置く”コンソール”を探していると言うことで、ご夫婦が工房に来られた。まだ建物は建設中のため、平面図や床の材料、建具のデザインを写真で見せていただき、お客様の好みを考慮しつつ、配置する場所に合う樹種や形状をご提案させて頂いた。
樹種はアメリカンチェリー材。時間と共に色が濃くなる、柔らかい雰囲気の樹種。
シンプルな形状でありつつ、曲線や材料の厚みのメリハリをつけることで、チェリー材の魅力を引き出せる家具になるように検討した。
玄関ホールに設置されたコンソールは、お客様の真鍮の置き時計ともよく馴染んでいた。
コンソールテーブルを気に入って頂き、ダイニングに置く”キャビネット”の製作のご依頼も頂いた。
2階のダイニングは濃い茶色の家具で統一されていて、落ち着いた雰囲気。
その雰囲気に馴染むよう、キャビネットはウォールナット材で、シンプルさの中に少しレトロな印象が感じられるような家具になるよう、細かい納まりも念入りに検討した。
A4サイズのものが入るよう、下段は開き戸。上段は2段にしたいというのがお客様のご希望。ご要望を考慮し、お客様のダイニングに合うよう上のスケッチのような家具を提案させて頂いた。
つまみはどのような形状や素材・樹種が合うか、最後まで悩んだ。
より表情がでるよう樹種を”ローズウッド材”とした。
まるでそこにあったかのように、お客様の日常に溶け込んでいけばいいなぁと思う。
kumiko

オーク ダイニングテーブル

茅ヶ崎、松尾建設で家を新築中の若いご夫婦からご指名をいただき、ダイニングテーブルとベンチを製作させていただくことになった。

茅ヶ崎という土地柄、松尾建設の建てる素材感を大切にした暖かい雰囲気の家に合わせて、素材そのものの持つ雰囲気を活かした、長く使い込むほどに味が出るような重厚なテーブルにしたかった。
どっしりとした厚めの天板。男性的な強さのあるオーク材で製作することにした。材料の良し悪しが全体の印象に大きく影響するデザイン。テーブル天板の材料選びには特に慎重になる。材料をしばらく眺めまわしてどれを天板用にするかを選ぶ。ようやく心が決まり、荒木の材料を削り始める。削り込むほどにうれしくなってきた。予想以上の木肌がでてきて思わず1人ニヤニヤしてしまう。いい材料を削っていくほどわくわくすることはない。いつまでも眺めていたくなるような暖かな雰囲気がある。職人の技術というのは本来、素材の魅力を見極め、それを最大限に引き出すだめの最小限の手、なのかなと思う。
引渡し直前、まだ主のいない家のダイニングに、完成したばかりのテーブルとベンチをそっと(こんなに大きなもの、なにも”そっと”じゃなくてもいいのだけれど、なんとなくそんな気持ちで)置いて帰る。
オークダイニングテーブル
オークダイニングテーブル
これから始まる物語の中で、この家とともに育っていってくれるといいと思う。
takashi

椅子 – 試作から試作へ

HALFMOON FURNITURE  オリジナルの椅子。

試作の椅子から数カ所修正し、製作方法や強度の確認のため、更に試作を製作。
何度も何度も改良し、少しずつイメージの形と座り心地になってきた。
(ような気がします。。。)
kumiko

コーポラティブハウス2

以前、コーポラティブハウスの家具についてブログを書きましたが、今回は同じコーポラティブハウスの別の住戸に納めた家具についてご紹介させて頂きます。

「白と濃い茶色の空間」というのがこの住戸の特徴ということで、造り付けの家具は樹種の色自体が濃茶であるウォールナット材をご提案させて頂きました。
造り付け家具
リビングの壁面には約5.6メートルの長さの吊り収納。その下には3メートルほどのデスク。
吊り収納は木目をつなげ、ウォールナットのおおらかな木目を生かした作りにしました。
廊下と書斎部屋を仕切る間仕切りの機能をもった、薄い本棚。
一部に転倒防止の鉄の丸棒を取付けています。
今回、製作前にお客様に工房にお越しいただき、ウォールナット材の板目や柾目の使い分けなどの意匠的なことや、お客様が大切にするところを直接お会いしお話をできたこと、
また製作の場を見て頂くことで、ものが作られるということを少しでもお客様に実感して頂けたと思います。打ち合わせは数時間でしたが、とても有意義な時間となりました。
全ての工事が完了した後、追加でTVボードの製作依頼をいただきました。
TVボード納品の際、ものが納められそこに馴染んでいく家具を見ながら
ほっとしたのと同時に、とても長かったこの現場が無事終わったんだなぁと実感しました。
優秀な現場監督と職人さんたちの仕事に対する姿勢、厳しさのなかにも人への配慮のある
雰囲気のいい現場で仕事をすることができ、色々な面で勉強させていただきました。
ありがとうございました。
kumiko

椅子

HALFMOON FURNITUREでは現在、オリジナル椅子の試作製作をしています。
建築の勉強をしていたころ、敷地を見て視界が抜けるところ(空だったり、緑だったり)に窓を設けたり、風景を想像しながらよくプランをしていました。
ソファに座ったときに見える風景。
そのような風景を想像したとき、視界を遮らない椅子(視界が抜ける)は、
気持ちのよい空間をつくる一つの方法なのかなと思います。
視界を遮らないけれど、存在感のある椅子。
そして「腰掛けるための家具」なので、座り心地や構造がしっかりしている椅子。

試作の椅子に何度も座り、何度も眺めて改良する日々です。
kumiko
 

お仏壇製作

シンプルな現代仏壇を、とのご依頼をいただいたのは、元家具職人で、僕が最初に勤めた家具工房でお世話になった方と、奥様からだった。経験豊かな元職人さんからのご依頼ということもそうだけれど、それ以上に久しぶりのご連絡がとてもうれしかった。
メールでのやり取りで、いくつかのプランを作成し、工房で一度、さらにご自宅にお邪魔して、と打ち合わせを重ね、最終プランが出来上がり、製作へと進んだ。

ご夫婦が大切にされている二棹の古い桐箪笥の間に設置するとのことで、和の雰囲気にも合うような、シンプルなデザインにした。お仏壇部分の框扉には部屋の壁に合わせて、漆喰塗りの鏡板をはめ込み、内部にはダウンライト、三段棚、膳引きを作りつける。
ナラ 仏壇
ナラ 仏壇
漆喰部分の製作は妻が担当し、沖縄の白土をベースに石灰、珪砂を混ぜ、素材作りから始め、コテで平滑に押さえながら塗っていく。コテ目を残さないように、しっかりと押さえて平滑に仕上げられた左官の仕上げが好きだ。平らで均一な中にも奥行きとやわらかな風合いがある。
ナラ 仏壇
ナラ 仏壇
お仏壇という、ご家族の想いの詰まったものだけに、製作の日々はとても緊張感のあるものだった。その分、納品、設置をした時のご夫婦のご様子、二棹の桐箪笥の間に馴染んでいる姿にとても安心した。
takashi

コーポラティブハウス 1

世田谷区の閑静な住宅街に「コーポラティブハウス」が完成した。
全13住戸、それぞれ間取りも仕様も異なるとても個性的な集合住宅。
その中の4住戸の造作家具を製作させていただいた。
設計の方とお客様に工房まで来ていただき、打ち合わせをしたのは、もう10ヶ月ほど前のこと。それぞれのお客様が完成を楽しみにしていた姿が、最近のことのように思う。
その中のひとつ。
北欧好きのお客様の住戸。玄関に楢材の下足入れ、リビングとキッチンには楢材と白の組み合わせの吊り収納と、デザインを合わせたTVボードを作らせていただいた。
設計のねらいとお客様の大切にしていることを考慮し、より綺麗にみえる製作方法や木目、樹種の色味を常に意識しながらの製作となった。
造作家具は建築空間と一体化して完成となる。
工房で見ていた以上に、そこに納まった家具たちは雰囲気よく佇んでいた。

オリーブ色の壁と楢と白。
とても素敵な住空間作りに参加させていただいたことに感謝します。
kumiko

天板木取り

削り込むほどに嬉しくなってくる。

若いご夫婦のためのダイニングテーブル。今回は厚めの天板のどっしりとしたデザインだけに、ある程度幅の広い材をハギ合わせて存在感のある板にしたいと思っていた。イメージ通りか、それ以上の木取りができた。いい材料を削っていくほどわくわくするものはない。
いつまでも眺めていたくなるほど、あたたかい気持ちにさせてくれる。
知識が深く、親身になってくれる材料屋さんとの出会いによるところが大きい。
素材の魅力を最大限に引き出せるよう丁寧に仕上げていこう。
takashi