ナラ材TVボード製作

TVボード ナラ材

既製品を買うつもりで探していたけれど、なかなか思うようなものにめぐり合えず、オーダーのお問い合わせをいただくことが少なからずある。

今回もそのような経緯でのご相談が始まりだった。

TVボード、というだけであれば既製品でもあらゆるサイズ、デザインのものが売られている。お客様はご自宅を購入されてからしばらくの間、リビングに合いそうな一台を探されていた。ある程度イメージに近いものはあったようだけれど、壁面のコンセントや壁掛けテレビの配線等どうしても綺麗に収まらない点があった。

打ち合わせの中で機能的なご要望、デザイン的な好み、リビング空間でのご家族の過ごし方等さまざまなお話をお伺いした上でデザイン案を作成し、ご提案させていただいた。

明るくすっきりとしたリビング空間の中で、シンプルだけれど存在感のある家具にしたかった。無垢材の質感を前面に出しながらも形は柔らかく、重たい印象になり過ぎないように。

小さなお子さんがその前でおもちゃを広げて自由に遊んでいる。時には傷つけることもあるかもしれない。ご家族の様々な記憶を刻みながらずっとそこにある家具になって欲しいと思いながらプランをつめていった。

お客様ご家族も、オーダーを進めていく過程をとても楽しんでくれていたことが何よりうれしかった。製作中もご家族で工房に遊びに来ていただいた。もちろんご希望に沿ったデザインや機能を備えたものができるというのはオーダー家具の大きな魅力ではあるけれど、作り上げていく過程を楽しめるというのが一般的な買い物とは大きく違う、オーダー家具の最大の魅力だと思う。そしてそれは出来上がった後もそのものに宿る物語の一部になると信じている。

TVボード ナラ材 TVボード ナラ材 TVボード ナラ材

この家具がご家族の日常と共に魅力を増していってくれると良いと思う。

takashi

BlueDOOR coffee たまプラーザ店

ブルードア

わたしたちの工房から少し歩いたところに、とても雰囲気のいい小屋がある。

自家焙煎コーヒー店「BlueDOOR coffee」。

BlueDOOR coffee 2号店をたまプラーザでオープンしたく、全体のお店つくりを同じ寺家町でものづくりをしているHALFMOON FURNITUREにお願いしたい、というお話しをある日いただいた。ここ「寺家町」は里山が広がる田園風景が今も残っている地域で、同じ場所に工房を構えている私たちに声を掛けていただいたことがとても嬉しく、お話しを受けてお店つくりがスタートした。

BlueDOOR coffeeの店主と話をしていく中で、お店全体を「素材の質」を生かした仕上げとした。具体的にはカウンターなどの家具は無垢材、壁は漆喰、椅子の座面は本革、アクセントに真鍮。どれも経年変化で味わいが出てくる魅力的で深みのある素材だ。今の流行にとらわれない、質の高いものをシンプルに取り入れる、取り繕うことのないストレートな素材の使い方を好んだBlueDOORの店主。本質を追うBlueDOORの考え方が、少しでもお店の内装で表現できればと思いながら具体的なプランを進めていった。

たまプラーザのお店はオープンなキッチンスペースにカウンター席があるシンプルな構成。オープンキッチンの顔となる吊収納はワイルドな節があるウォールナット無垢材で製作。そして各カウンターの天板は節ありナラ無垢材で作り、それぞれワイルドな木目生かしつつ品のある家具になるよう仕上げていった。

bluedoorcoffee

客席カウンター側の壁一面には漆喰の表情が出るよう蝋燭を灯す燭台のようなイメージで照明を配置し、台座はお店全体の雰囲気に馴染むようデザインし製作した。そして、お客様が座るスツールはできる限りコンパクトにしつつ、座り心地のよい形を追求した。空間全体を考えながら、一つ一つ詳細を考え製作する作業は緊張感がありつつ、楽しい日々となった。

カウンタースツール 照明

出来上がったお店はとてもシンプルですが、こだわった一つ一つの要素が関連し合い、素材のもつ力のお陰でなんとも落ち着いた雰囲気の空間になったと思います。

先日、お店に伺ったら照明スタンドや植物、古いワイン樽をリメイクして作られたテーブルなどがバランスよく配置され、古いものと新しいものが融合したBlueDOOR coffeeらしい色のあるお店になっていた。

作り手がお客様に合うようシンプルに作り、それにお客様が色を添えていく。

家具や住宅、そしてお店を作り上げていく一つの理想の形だと思った。  kumiko

「BlueDOOR coffee たまプラーザ店」

神奈川県横浜市青葉区美しが丘2丁目17−12

HP : bluedoorcoffee360.com

ソファ

ソファ ミナペルホネン

ソファ ナラ材 W1800xD800xSH380

以前、ダイニングセットを製作させていただいた際にご相談いただいていたソファが完成した。

ダイニングセットは、ご自宅マンションをリフォームされたタイミングで製作させていただいた。リフォームの際、すでに独立されていた息子さんの部屋をつぶしてしまい、時々帰って来ても寝る場所がなくなってしまったため、リビングのソファは、ベッドとしても使えるフラットな座面のものにしたいとのご要望だった。

ダイニングセットと合わせたナラ無垢材のフレームのベンチ型で提案させていただいた。ソファはクッション部分の面積が大きいため、使う生地によって印象が大きく左右される。リビング空間の中にしっくりと馴染みながらも、特徴的な存在にしたかった。

お客様ご夫婦と一緒にショールームにも出かけ、実際の生地を見て触って、ミナペルホネンのタンバリンで製作することに決めた。

完成したソファを設置すると、広々として明るいリビングに落ち着きが生まれた。ミナペルホネンの生地が品の良い色味と質感を持ち、独特の存在感を放っていた。

ソファ ミナペルホネン ソファ ミナペルホネン ソファ ミナペルホネン

コーヒーを淹れていただき、いろいろなお話をしながら過ごす時間がとても居心地良く、この日もすっかり長居してしまった。

takashi

猫拾う

なぜか僕は猫の死に目によく会う。

車で走っていると道の真ん中に猫が倒れている。道を横切ろうとした猫が、僕の前を走っている車に目の前ではねられたこともある。道の真ん中だし、そのまま立ち去るのも気が引けて車を停めて近づいてみる。いやだなと思いながら。生きていたらいやだなと。でもいつも、まだ生きている。生きてはいるけれど助かる可能性は間違いなく無い。ただ、道の真ん中ではいくらなんでもかわいそうなので、端に寄せて、死ぬまで待つことにしている。お腹でもさすりながらただ死ぬのを待つことにしている。高校生の頃だったか、近所のおばさんがそうしていたところを見て以来、真似しているだけだけれど。

今年の春、それと逆のことが起こった。そしてこんな時こそどうすべきなのか、難しいと思った。

工房への帰り道、たまたま立ち寄った畑道の自動販売機。畑の方から仔猫の鳴き声が聞こえていた。野良猫の仔かと思い、見回してみたけれど姿が見えない。でも間違いなく近くにいる。水路にでもはまって鳴いているのかと思い、覗いてみたけれど見当たらない。ふと畑脇の側溝に目を向けると、手提げ袋が目に入った。嫌な予感がした。このまま立ち去ろうかとも考えたけれど、袋を開けて覗いてしまった。

見たこともないくらい小さな(ネズミぐらいの)三毛の仔猫が鳴いていた。目も開いていない。この後、雨になるという予報。やっぱり見なければ良かったとも思った。これが野良猫の仔で母親が近くにいたとすれば、例えこのままでは生きられないだろうと思ったとしても、わざわざそこから連れ去ることはしない。でも、これは明らかに人が捨てた仔猫。間違いなくこのままでは近いうちに死ぬ。きっと一晩で死ぬ。とにかく連れて帰った。連れ帰ったは良いけれど、どうしよう。。元気よく鳴いてはいるけれど、ミルクも飲まない。猫を飼っている友人に相談したところ、生まれたての仔猫を育てるのは難しいとのことで、獣医さんに相談してみたほうが良いと紹介してもらった。一晩なんとか面倒を見て翌朝、友人から紹介してもらった「さかい犬猫クリニック」に連れて行った。とても親切な獣医さんで、自分のことのように考えてくれた。今のところ健康に問題はなさそうだけれど、やはり小さすぎて人の手で育てるのは難しく、子育て中の猫に混ぜてしまうのが一番良いのではないかという。知り合いの保護団体にあてがあるとのことですぐに連絡を取ってくれて、無事に受け入れてもらうことができた。それでもちゃんと育ってくれるかどうかはなんともいえないというけれど、とりあえずはほっとした。さかいさんは診察代も受け取らなかった。

それにしても、どういう事情で捨てたのかは知らないけれど、どうしてあんな誰にも発見されそうに無い場所をわざわざ選んだのだろうか。いざ捨てようとすると人目が気になって、だれも通らない畑道を進んだのか。その場から立ち去るときどんな気持ちだったのだろう。この後雨の予報。ダンボールでもなく、紙袋でもなく、ただのビニール袋でもなく、ビニールでコーティングされた手提げ袋に入れて口をしっかりと折り返していたところを見ると、雨にぬれてしまってはかわいそうという気持ちがあったのだと思う。心を痛めながらその場から逃げるように立ち去ったのか。たぶん気になって様子を見に戻ってきたことだろうと思う。そして袋がなくなっていることに気付いて、安心しただろう。でももし、僕が拾っていなかったら、いたたまれなくなった飼い主が思い直して親猫のところに連れて帰っていたかもしれない。もしそうならそれが仔猫にとっては一番良い結果になったのではないかとも思う。そう考えると僕が連れて帰ったことを後悔する。放っておけずに持ち帰ったものの、結局どうすることもできず僕がまた捨てに行かなければならないということだってありえたかもしれない。自分で責任を持てないことをするべきではないのか。考えるほど、気持ちの良いものではない。

あれから半年、保護団体スタッフの方々の献身的なお世話のおかげで無事に離乳して、手を上げていただいた里親さんの元に渡り、家族の一員として元気に育っている。

たまたまが繋がってなんとかなったけれど、そうでないことがたくさんあるんだろうと思う。

takashi

イージーチェア、カウンターテーブル

チーク材の床に松の板貼りの壁、使い込んだテーブルや椅子が置かれたダイニング空間は午後の光に満たされ、部屋中に並べられた蘭の株の緑が柔らかな色彩を放ち、心地よく落ち着いた時間が流れていた。

長年暮らしてきた家をリフォームされるタイミングでご依頼いただいた家具たちもそれぞれの居場所を与えられ、今までとこれからをつないでいるようだった。

お二人暮らし用にコンパクトにリフォームして、リビングとつながりのあるオープンな空間となったキッチンには、カウンターテーブルを製作させていただいた。ここで食事をすることも多くなるとのことで、天板にはこれまでデスクとして使ってきた思い入れのあるウェンジの一枚板を再利用したいとのご要望があり、その板に合わせて製作することになった。本体には床材と合わせてチーク材を使い、リビング側は奥行の浅い飾り棚とし、キッチン側には引き出しと開き扉を設けた両面使いの収納として製作した。合わせてご依頼いただいたhalf moonオリジナルのキッチンスツールがカウンター越しに向かい合わせで置かれている。

キッチンスツール

それぞれ黒と茶の革張りで製作させていただいたご夫婦のためのイージーチェアは、ご主人のこだわりのオーディオセットの正面に並んで置かれていた。夕食の後、庭から積んできたハーブのお茶を淹れて音楽をかけながら、ここでそれぞれ好きな本を読んで過ごす時間はどんなだろう。時折ぽつりぽつりと言葉を交わしながらゆるやかに流れる時間を想像してみる。

イージーチェア イージーチェア

ものづくりの先にはいつも様々な風景が広がっている。

takashi

キッチンカウンター

キッチンカウンター

先日、新築のご自宅にキッチンカウンターと収納を納品しました。

寒い冬が終わり春が来たころ、一通のメールを頂いたことがこのお客様との出会いです。

これから家を建て始めるところで、キッチンのカウンターを探してるとのこと。リビングダイニングのメインの場所で、内装の雰囲気にあったものをご希望。ただ、家全体のこともあり予算は限られているとのことでした。

丁度そのとき、葉山の住宅の設計と家具の製作をしていたころで、よく住空間と家具について考えいる時期でした。建築との兼ね合いで家具まで予算がいかないことが多いですが、経年変化も楽しめる、木の持つ魅力を感じてほしいなと思っていました。

メールでのやりとりの後、実際に工房にお越しいただき、雑談を交えながらこれから始まる自宅のことなど楽しくお話させて頂きました。木のもつ温もりやその佇まいを感じて頂け、お客様の大切にするところを私たちも十分に理解しながら、何度か打ち合わせを重ね、製作へと進むことになりました。

床材や壁の内装と合うよう、ナラの節あり材を使ったキッチンカウンターをご提案させて頂き、キッチン側は予算のことも考慮し、既製のラックなどを収納できる寸法としました。

無垢の木材は、同じ樹種でも一つして同じ色、同じ木目のものはありません。

シンプルな無垢板のカウンターですが、その自然の木目の存在感、佇まいは美しいものだと思います。

木目や表情の生かし方も、作り手それぞれの個性となる部分でもあります。

リビング側の収納

今回の打ち合わせの中で、ご夫婦共に木に触れたときの心地よさを大切にし、ウレタン塗装ではなくオイル仕上げを選択されたときの、お二人のやりとりや表情がなんだか印象的でした。木の触り心地、大切ですね。

kumiko

HOUSE PROJECT -家具・建具について

オーダー家具 HALFMOON

今回設計を担当した葉山の家は、キッチンや洗面、建具、ダイニングセットもデザイン製作させて頂きました。

リビングダイニングで過ごすことが多いご家族にとって、心地よい空間とは何かを問いながら、機能的なことも考慮し一つ一つご提案しました。お客様の好みの雰囲気は白を基調とし、濃い茶色を家具にというモダンな雰囲気がご希望。

私たちがいつも大切にしている、「使う人たちの生活に寄り添いながら、古くなったときも味わい深くなる家具。」という考えとお客様のご希望のイメージを汲み取りながら、全体のバランスを考えデザインと製作させていただきました。

建築の要素ー床や壁の素材、照明と家具ーダイニングテーブルや椅子、TVボード、そして建具やキッチンが統一されたことで、シンプルさの中に心地よく飽きのこない空間になったと思います。今回メインで使用したウォールナットや楢の無垢材が時間と共により味わいのある表情になっていくのも、無垢材の楽しみでもあります。

HALFMOON

キッチンの背面収納は使いやすい引き出しとし、一番上はトレーとして使えるように製作しています。

キッチンは壁と同色のグレー。引き手が直線で繋がるようにしました。

洗面はボールが2つあり、収納付きミラーの上下は間接照明を設置。

オーダー家具 HALFMOON

リビングに面した和室の建具は、ウォールナットの無垢材とワーロン紙で製作。

ダイニングセット

HALFMOON FURNITUREの定番のダイニングセット (ウォールナット無垢材 L1800xD850xH700)

設計スタートから完成まで約1年のプロジェクト。

お客様ご家族がこちらからの提案をいつも笑顔で快く受け入れてくれ、出来上がっていく空間をとても楽しみにしてくれて、私たちも気持ちよく製作へと進むことがきました。また、いつもとは違う手間のかかることも共に考え作り上げてくれた職人さんたち。そして、様々なことに本当に心よく対応してくださった松尾建設の青木社長。

ここに住まうご家族、職人さんたち、そして松尾建設青木社長、色々な方の協力のもと作り上げた完全オリジナルの家が完成。

これから、このご家族の生活が始まっていくことを想像するととても楽しみです。

kumiko

HOUSE PROJECT -家全体について

HALFMOON

昨年から携わっていた住宅が7月はじめに完成しました。

今回の家づくりでは、私たちHALFMOON FURNITUREが家全体の設計から、建築に付随する建具やキッチン・洗面台・各収納からTVボード、ダイニングテーブル、椅子の置き家具まで、デザインから製作まで担当させていただきました。

場所は葉山。今回の敷地は3方向家がある旗竿地。お客様のご要望は、車を2台並列駐車、リビングは1階、できる限り広いLDにしたいとのことでした。これらのことを考慮すると、南側に採光が期待できるほど建物をバックさせられないため、南東方向より光を取り入れるプランニングになるよう心がけました。さらに光が1階のダイニング側にも届くよう、階段上に天窓を設け間接光が入るようにしています。とても明るい階段となり、リビングに視線も抜けて、気持ちの良い空間になりました。

家づくり 家具

1階はLDKと水廻り、和室があり、全体がつながっているプランです。玄関からリビングへ、水廻りからダイニングへ、ゆるく遮りながら、視線は抜ける通路があります。また、空間の広がりを感じられるようリビングやキッチン・和室にいるときの視線向こう側の景色を意識し、心地よく生活できるよう間取りはもちろん、家具や建具の素材の使い方を工夫しています。

HALFMOON

1階LDK  縦格子の向こうは和室

HALFMOON

(左)玄関からリビングへ (右)水廻りからダイニングへ 

2階は寝室と子供部屋、書斎です。お子様たちそれぞれが色を添えていければと思い、最低限の機能を満たしシンプルな部屋にしています。家全体のプランは各部屋が東を向くシンプルな構成ですが、吹き抜けやバルコニーなどの建築に関わる部分や、間仕切り部分にもガラスを利用するなどの工夫で、上下の階や各部屋がプライバシーを保ちつつも繋がった空間になっています。

HALFMOON

(左)2階廊下 右側には2.5階の書斎 (右)階段の吹き抜け部分を利用した書斎/書斎下は収納

建築と家具、それぞれの素材が統一されることで、質の高い心地よい空間になったと思います。

今回は家の空間について、次はキッチンなどの水廻りや家具・建具についてブログでご紹介させていただきます。

kumiko

掘り炬燵、ローテーブル製作

掘りごたつ ローテーブル

東側の大きな掃き出しの窓を開け放って庭の枝垂れ梅を眺めていた。時折、小鳥たちが飛んできて、しばらく羽を休め、また飛び立ってゆく。この家を立てる前からそこにあったという枝垂れ梅。この家の設計士はこんな眺めを想像して、ここに和室を作ったんだなということがよくわかる。

こんなにいい部屋だったのかと改めて思う。部屋そのものが良いのはわかっていただけれど、部屋に中心ができることで、ゆったりと居座ることができるようになった。これまでにも何度もこの部屋には来ていたのに味わったことのない感覚だった。

ご家族で麻雀をはじめたとのことで、和室に長時間座っていられるように堀り炬燵をつくりたいとのご相談をいただいた。

当初お客様は、和室の床を一部抜き、堀り炬燵にしてそこに自動麻雀卓を置くことを検討されていた。

でも、

と思った。この家に自動麻雀卓は絶対に似合わない。

HALF MOON設立の年に出会って以来、まるで親戚のように応援していただき、お付き合いさせてもらっているお客様。ものに対する、生活に対するこだわりの強さをよく知っている。自動麻雀卓には反対した。

もちろん、作り手のエゴで家具を提案すべきではないと常々考えている。もしこれがあくまでも麻雀中心のお話であれば、それはそれで尊重すべきだと思う。だけど、この家の生活にはどう考えてもそれは似つかわしくないと思えた。

結局、床を抜いての掘りこたつ工事と合わせて、ローテーブルも製作させていただくことになった。

障子を開け放つとダイニングからもつながる和室。すっきりとした、シルエットの綺麗なローテーブルが似合うと思った。

掘りごたつ ローテーブル

掘り炬燵を作って以来、麻雀だけでなく、和室で過ごす時間が多くなったという。この家を建てて5年が過ぎ、これまであまり使ってこなかった和室を楽しんでいるという。家具が入ることでその部屋がより良く生きてくれたら、それは理想的なあり方だと思う。

takashi

ナラ材ダイニングセット

ナラ ダイニングセット

dining table:1500 x 850 x h700 ナラ オイルフィニッシュ  01 chair : ナラ オイルフィニッシュ 本革張り

最初にお問い合わせの電話をいただいたときのことを印象深く覚えている。

去年の初夏、数日の休みを取って北海道蘭越町の及川農園を訪ねていた。

及川一家とのとても素敵な夜を過ごした翌朝、みんなで畑を見て回っていた時、僕の携帯電話が鳴った。それは工房からの転送電話だった。羊蹄山の見える広大な畑の中で、ダイニングテーブルに関するお問い合わせ。頭と体のいる場所がちぐはぐで、何を話したかもほとんど覚えていない。ただ、なんとなく長いお付き合いになるような予感がしていた。最後にお伺いしたお客様のお名前と電話番号を、メモを取る紙もペンもないまま、畑の真ん中で必死に反芻して記憶したことだけはよく覚えている。(幸いその記憶は正しかった。)

それから2ヵ月後の工房オープン日にふらりとご夫婦で工房にお越しいただき、初めてお会いすることになった。もともとはご自宅マンションを全面リフォームするにあたり、ダイニングを中心とした家具を探していたところ、たまたま雑誌で見かけたhalf moonのキッチンスツールが気になってお問い合わせをいただいたとのことだった。最初は、奥様に「連れてこられただけ」という風情だったご主人が、展示品の01チェアに座って、オリジナルのダイニングテーブルに着き、しばらく話していると突然「気に入った」と一言仰っていただいたのがとても嬉しく、印象的な瞬間だった。

後日、お客様のマンションにお伺いしてテーブルサイズ、樹種等を最終決定し、ダイニングテーブル、01チェア2脚、ベンチ、キッチンスツール2脚をナラ材で製作させていただくことになった。

お会いするたびにお2人のこだわりの強さが伝わってきた。作りにも興味を持たれており、製作中にもお2人で工房にお越しいただいた。電車移動のお二人、駅まで迎えに行きますよ、とは言ったものの、僕のボロボロのワーゲンバスに3人で横並びで乗っていただくことになることだけが申し訳ないなと少し気がかりだった。でも、そんな心配をよそに、それはそれで結構楽しんでいただけたようだった。ちょっと日常を離れて、変な車に乗って畑道を走り、竹林に囲まれた小さな工房へ。椅子の笠木が削られていくところを見て、まだ形になる前のダイニングテーブルに触れる一日。そんなこともこの家具たちを通して時々思い出す一つの風景になってくれればと思う。

手作り家具 手作り家具 手作り家具 ナラ ダイニングセット

納品後、奥様からこんなご報告をいただいた。夜、仕事から帰宅すると、いつもは自分の部屋にいる大学生の娘さんがダイニングにいたという。とても素敵な話だと思う。この仕事をやっていて良かったと心から思える瞬間だった。

引き続きソファ製作のご依頼をいただいている。こちらも独立された息子さんへの想いから始まったお話。製作がとても楽しみだ。

takashi

HOUSE PROJECT 上棟編

HALFMOON FURNITUREが設計デザインを担当している家が先日上棟致しました。

何もなかった土地に新たに家を建てること、そしてここから住まうご家族の生活がスタートすることを想像するだけでワクワクする、晴れ晴れしい気持ちになります。

昨年の夏にここの土地を見て、敷地の特性について考えたこと、ご家族の大切にすることをヒアリングして形にしていったことが今、職人さんの手で実物の形になりました。そして、この箱がこれから機能を持ち始めます。

今回の家づくりは家具や建具から、手摺や窓枠などの建築に付随する細かな部分までデザインし製作させていただきます。

先日、設計と家具製作を担当する立場として、担当の大工さんともじっくりと打ち合わせをさせて頂きました。家づくりは普段の家具作りとは異なり、色々な職人さんとの連携が大切になります。

いつも私たちがものづくりで大切にしている「対話」を今回も大切にし、それぞれの立場から意見を出し合い、チームとしての家づくりをしていきたいと思っています。

これからいよいよ家具作りもスタートです。

一つ一つを丁寧に、取り組んでいきます。わたしたちも完成がとても楽しみです。

kumiko

ものに宿るちから

今年、我が家に”探検家のおじさん”がやってきた。人形作家の高橋昭子さんの作品。

この出来事は、私の心に奥にズシンと、経験したことのない感覚を与えるものだった。大げさかもしれないが、今までもそしてこの先も多くは経験しない類のものだと思う。

人にはそれぞれ宝物がある。
それは遠い記憶だったり、音楽や本、家族だったり。。十人十色だと思う。
このおじさんはものではある(私にとっては”もの”ではないが)のだけれど、単なるものではない。おじさんは、わたしを日常世界から別の遠いどこかへ連れて行ってくれる。それは遠い記憶の世界なのか、どこかなのかは私にもわからない。ただ、この世はいつも楽しく輝いているわけではなく、曇って見えるときもある。そんなとき、ふとおじさんを見つめると、一瞬そんなことを忘れて別な世界へ行っているときがある。何かわからないパワーを得られるような気分。不思議だなぁって本当に思う。自分の心を揺すぶる音楽を聴いたときや本の世界へ引き込まれたときの感覚に似ているのかもしれない。

そのちからは本当にすごい。宝物、そんな言葉で表現するものでもないのかもしれない。

そんな不思議なちからをもったおじさんをつく出す作家さんに私はずっと魅了されっぱなしだ。

感性。

言葉で理解している以上に、おじさんとの出会いは私に「感性」というものを教えてくれた。

本当に色々なことをわたしのところにもってきてくれた”おじさん”。

今年は、とても大切な仲間ができた。