中村好文展「小屋においでよ!」

 「住宅とは何か?」
この展覧会が、来場者のひとりひとりにとって、小屋を通じて考える

またとないきっかけになってくれますように・・・。(中村好文)
ギャラリー間で開催中の建築家、中村好文展「小屋においでよ!」
開催時よりずっと気になっていた展覧会。行ってきました。

3Fスペースは「古今東西の7つの小屋」
杉板で作られた小屋がいくつかあり、その中には好文さんが影響を受けた
究極の小屋の生活が紹介されています。

中庭には「Hanem Hut」と名付けられた自給自足型の一人暮らし用の小屋があります。
3.6坪の空間は、建物や家具はもちろん、細かい金物や薪ストーブまでデザインされていて、
その一つ一つが見た目のデザインだけではなく、そこでの行為をとても大切に考え、
設計されているのが伝わってきました。好文さんの私物が多く置いてありますが、それが
置いてあることで初めて空間が意味あるものになるのです。
そこは、小さいけれどゆったりとした豊かな時間が流れていました。
豊かな暮らし、居心地のいい空間とは広さではないことを教えてくれるものであり、
まさに「住宅とは何か?」の問に対する好文さんの思想が感じとれます。

4Fは好文さんが手掛けてきた「小屋」の写真やスケッチが展示されているのと、
中庭のHanem Hutのスケッチから実施図まで一式展示してあります。

住宅とは人が生活する空間です。
生活するとは。。。おそらく、10人いれば10通りの違いがあると思います。
同じ行為でも、人の体の大きさ、もっているもの、くせ、好みなど様々です。
家具や空間はそれぞれに合わせて作られるものが、理想のあり方だとわたしは考えています。
それは、広い空間の部屋があるとか、高価な家具があるというのではなく、
必要最低限、というかその行為に十分な家具や空間(見方によっては質素かもしれないが)。
そこが緻密に考えられたもの、質の高いものが使う人にとっての豊かな空間になるのでは
ないでしょうか。まさに、好文さんの小屋で感じることができました。

家具や空間を設計製作するもののひとりとして、
使う方の行為をどこまで想像でき、豊かなものにするか。
ひとつひとつ丁寧に真摯に向き合っていきたいと改めて思った展示会でした。

kumiko

中村好文展「小屋においでよ!」(ギャラリー間/~6月22日 日曜月曜祝日休み)
是非、足を運んでみてください。おすすめです。 

HP:http://www.toto.co.jp/gallerma/

 

「小さな額の中の磨き土壁」

わたしが土という素材にで出会ったのは、10年以上前になるだろうか。

色々な天然素材や伝統技法に触れるたびに、パソコンで作られたグラフィックデザインと
伝統技法が融合されたものができないかなぁ。。。と漠然と考えていた。
そんなとき(2年前になるが)、友達が床屋をオープンする話があり、
そのロゴを見せてもらう機会があった。見たときに、土(大津磨き)で作ってお祝いにあげたいな。
と、頼まれもしないのに、勝手に作ってしまったものが、これである。

お店の端(お手洗い)にでも・・・と言って渡したが、今は、彼の好きな音楽のジャケットと共に、

お店の大きなRCの壁面にでーん と飾ってもらっている。

     

 

「小さな額の中の磨き土壁」


日本の土壁。天然素材である「土」のもつ、やさしさ。

中でも光沢があり、水拭きもできる土壁として幻になりつつある「大津磨き壁」。

天然土と石灰をブレンドし、コテで磨き上げるその「伝統技法」を

現代のグラフィックアートに融合。

使用した材料は「兵庫県出石白土・沖縄県赤土・天然藍顔料と石灰」。


この小さな額の中に、古き良き時代の日本の文化をほんの少し織り込むことができたと

考えています。地球環境が変化し始め、温暖化が進む今、この先ペンギンたちが

生きることができなくならないよう、製作を通してできる小さなこと、

 大切にしてきたいと思います。

                                 kumiko


WORKSHOP

 

「WORKSHOP」
日本では参加して何かをつくるというイベントのような意味で広がっていますが、
本来は『工房』という意味もあります。
スタートしたばかりの工房。少しずつ、内部と外部に彩りをあたえていこうと思っています。
GWの晴れた日。まずは、外の木部分を白くすることから始めました。
工房内部は、「領域のない空間」というのが理想です。
従来の「工場・ショールーム」と完全に仕切るのではなく、工場なんだけれど全体が家具の
ショールームとなっているような空間。まだ、旦那さんと構想(妄想?)中ですが、
こちらも徐々に整えていきます。

作り手と対話ができるオープンな場であり、いろいろなことがここから生み出せる
WORKSHOPになることを目指して。。。

kumiko

季節の移り変わり             

ガサガサ、ザザザザ、ガサ、ガサ

         
ここのところ、工房で仕事をしていると

向かいの竹やぶから、たびたび聞こえてくる妙な音。

動物でも来ているのだろうか。

そっと外をのぞいてみる。

 

なんだ。

隣の精密金属加工屋さんの小沢さんだった。

それにしても、棒を持ったおじさんが真面目な顔をして

薮の中を行ったり来たり、ガサガサ、ガサガサ。

妙な光景だ。

何してるんだろう。大切なものでも落としたのだろうか。

ああ、そうか。

 

「タケノコ、ですか?」

 

「うん、、、」

 

「どう?」

 

「ないね。。。」

 

それから毎日、この繰り返し。

間の抜けた挨拶みたいに。

 

10日もたったある日、大きなタケノコを三本も手にした、小沢さんを見つけた。
「とうとう、採れましたね。」

 

「いや。これじゃ大きくなり過ぎちゃってて、堅くて食べられんよ。。。」

 

「じゃあ、どうして抜いたの?」

 

「ん。」

 

そういえば、小沢さん、昨日は仕事が立て込んでいたらしく、

一日作業場にこもりっぱなしで、一度も外に出てこなかった。

毎日毎日、一日に二度も三度も、やぶの番人みたいに

目を光らせていた小沢さんが目を離したのは、たった一日だった。

 

その日を最後に、棒を持った小沢さんを竹やぶの中に

見ることはなくなった。

 

これから毎年、こんなところに季節の移り変わりを見るのかと思うと

うれしくなる。

 

タケノコに、ではない。

 

小沢さんに、だ。                  
takashi

寺家町へ

「あそこの、森がこんもりしているあたりですよ。」
運転席のニイボリさんが遠くの方を指差して、僕たちに向かって言う。

「森がこんもり」
そのとき、僕の気持ちはほとんど決まっていたような気がする。
そんな場所を気に入らないとは思えなかった。
僕たちは工房の物件を探していた。
この一年、様々な幸運な出会いに恵まれ、今、このタイミングで
自分たちの工房を持つことに決めた。
長く住んだ海辺の町も気に入っていたけれど。
今まで、厚意で建具屋の作業場を間借りさせてくれていた
岡田のおじさんのところを離れるのも少し寂しい。
古くてがたがただけど、なんだか親しみがわいてしまった機械たち。
作業場の向いには岡田鞄教室。
 一流の革職人の岡田先生が時々顔を出してくれるのも心強かった。
けれど、タイミングを逃すと次はないかもしれない。
なかなかいい物件が見つからないにもかかわらず、
「森があって、小川が流れているようなところがいい。」
(そんなところは都会の近くには普通、ない。)
などと、いつまでも夢のようなことばかり言っている僕に半ばあきれながら、
これでだめならもう知らない、と最後に妻が見つけてきてくれた物件情報。
「青葉区寺家町」
横浜に生まれ育った僕も、今まで縁のなかった土地。
全くイメージがわかない。
とにかく行ってみることにした。
県道から川沿いの道へ。
「川。」
森の見える方角に曲がり、先週降った雪がまだ残る畑の脇の道をさらに奥へ。
「お。」
町からこんなに近いのに。
小人が住んでいそうな森。空想の世界と現実が近い場所。
雪のせいもあってか、そこはそんな場所に思えた。
その道の一番奥、森に囲まれた池のほとりに、その小屋は佇んでいた。
車を停め、ドアを開けると、ひんやりと澄んだ空気が流れ込んでくる。
外に出ると頭上では、風に揺られた竹の葉が心地よい音をたてていた。
それから2ヶ月後、機械を運び込み、そこは僕たちの工房になった。
様々な偶然が、危うく積み重なった上に立っているようなものかもしれないけれど、
とにかくスタートすることはできた。
先を思えば、期待も不安も、もちろんある。
だけど、そういうことにとらわれてばかりいても、今立っている場所が見えなくなる。
今、確かに過ごしているこの時間を、常に大切にしていきたいと思う。
何がうまくいっても、いかなくても。
takashi
寺家へ