
φ1350 x h730 アメリカンチェリー材オイル仕上げ
その場所にあることが、どこにあるよりも素敵に見える。それがオーダー家具の理想だと思う。
そもそもオーダー家具は、普遍的な究極の美しさを探求することよりも、作り手とお客様の価値観に基づいた極めて個人的な価値を追求するものだと思う。
今回、ダイニングテーブルを作り上げていく過程でのお客様との対話の中で改めてそれを感じることになった。
ご自宅は、長年にわたるご夫婦の生活の気配に満ちていた。そこには整然と飾られた空間の透明な雰囲気とは全然違う、様々な時間が交錯した人間の気配があった。長年にわたる生活の中で少しずつ集めてきた生活の道具たち。そのどれをとってもそれぞれに物語があって、それを話してくれる奥様の声色はとても暖かく、ご主人もとても懐かしそうに耳を傾けていた。
中にはご結婚当初、「全然お金がなかったから買った」という組み立て式の椅子もある。当時住んでいた狭い社宅の部屋の中にぶら下げて自分でペンキを塗ったのだというその椅子もその後30年以上に渡って大切に使われている。とても気に入ったから買ったというわけではないものであっても時間の流れの中で排除されていくのではなく、居場所を得て生活の中で不可欠なものになってきている。そういう一貫した価値観の集積が型にとらわれていない自由な雰囲気を作り出し、それがこの家の居心地の良さになっているのだと思う。
そんな中で長年使われてきたダイニングテーブルをそろそろ新しいものに買い替えようと考えているとのご相談を数年前からいただいており、この度大きめの丸テーブルとhalf moon 02chair革張りを2脚、新たに製作させていただくことになった。
打ち合わせを進めていく中でとても印象に残るやりとりがあった。丸テーブルの細かい寸法バランスを検討してゆく過程で、脚をこれ以上太く設定すると野暮ったい印象になってしまうという僕の意見に対してお客様は、「作り手としては本意ではないかもしれないけれど」と前置きをした上で、ここにはむしろその野暮ったさが欲しいと言った。整いすぎた形状を求めると堅い印象になってしまう。そこから少しはずしたいとのことだった。はっとした。それは全く不本意なことなんかではない。むしろ僕たちが本当にやりたいことはこういうことなのだということを改めて思い出させてくれる一言だった。このプロセスまでもが僕たちにとっては絶対的な価値を持ってダイニングテーブルは出来上がった。


takashi